学会活動

学会活動

欧州地球科学連合2016年度総会(EGU2016)に参加して

大気・海洋環境領域 主任研究員
大庭 雅道

1.EGUの概要

 2016年4月17日から23日まで、オーストリアのウィーンで開催された欧州地球科学連合(EGU)2016年度総会に参加した。 EGU総会にはヨーロッパを中心に約1万人強の研究者が参加し、地球温暖化などの地球環境問題から地域規模の防災やエネルギー問題への応用まで、地球科学とその応用に関する幅広い研究発表(約1万)があり、 例年活発な議論が行われている。地球科学の合同学会では、AGU(アメリカ地球物理学連合)に次ぐ大規模なものである。 米国の研究者は、AGUへの参加を好む傾向にあるが、一方で欧州(特にフランス・ドイツ)の研究者はEGUへの参加に積極的であり、 日本人や韓国・中国などの東アジア各国も参加している(日本人研究者の参加者は200-300人程度)。
 EGUとAGUの大きな違いとして、EGUはエネルギー環境問題への応用研究にかなり力を入れている点である。 エネルギー分野のプログラムでは、風力・太陽光・地熱をはじめとした再生可能エネルギーの最新研究から温室効果ガスの緩和シナリオ検討・CCSや、放射性物質・エアロゾルの大気海洋拡散といった環境問題まで、 幅広い分野で多くのセッションが開かれ、欧州のエネルギー環境問題に対する関心の高さがうかがえた。参加者は年々増加傾向にあり、設備・治安・交通の便などの理由から、毎年ウィーンにて開催されている。 会場も広く、数多くのセッション会場が設けられ、ポスターセッションの会場が広く取られているのが特徴的であった(写真)。なお、学会会場の隣はIAEA(国際原子力機関)の本部である。
 オーストリアはデンマークやドイツと同様に、自然エネルギーの導入が最も盛んな国のひとつで、国内需要の約30%を自然エネルギーで供給している(原発保有国ではあるが実際には稼働したことはない)。 このような欧州における自然エネルギーの社会インフラとしての重要性と関心の高さから、EGUでも自然エネルギー関連の研究を多くあつかっており、セッションも充実していた。報告者は、学会初日にエネルギー気象学のセッションで発表を行うとともに、気候・気象研究に関する情報収集を行った。

学会会場のウィーンのオーストリアセンター(左)と隣のIAEA本部(右)(筆者撮影)

2.セッション

 本総会では、気候学を初めとする様々な地球科学分野においてセッションが組まれていた。紙面の制約からその一部を紹介する。

◎Energy meteorology and spatial modelling of renewable energies(エネルギー気象学)
 本セッションにおいて、新エネルギー・産業技術総合開発機構の研究開発事業で行っている成果「日本における風力ランプの気象要因の分析とTIGGE(THORPEX Interactive Grand Global Ensemble)中期気象予報マルチモデルデータによる確率予測手法の開発と評価」を発表した。発表では、ENPC/EDF(フランス国立土木学校/フランス電力)のJean Thorey氏と自然エネルギーの中長期予測に関して議論することができた。Thorey氏は、昨年度までTIGGE中期気象予報マルチモデルデータによるフランス国内の太陽光発電量の予測精度に関する研究を行っており、フランスにおいて自然エネルギーの中長期予測の必要性が高まっていることがわかった。風力発電の急増するフランスにおいて、自然エネルギー予測の(確率的な)情報をどのように意志決定に活用しているのか、興味深いところである。なお、本セッションにおけるアジアからの発表は報告者のみであった。
  デンマーク工科大学(DTU)のOlsen氏は、デンマークに存在する代表的なウィンドファームに関して、30弱の複数の高解像度気象モデルを用いた風力発電量予測の相互比較プロジェクトの結果を紹介していた。モデルの格子解像度を上げることにより、より高い予報精度を持つ傾向があるようだ。このような大規模なモデル相互比較が風力発電量予測においても行われているというのは、驚きである。また、ドイツのMoemken氏はCMIP5マルチ気候モデルの予測結果から、欧州における風力発電量の温暖化影響評価(将来予測)を行っている。気象場分類とCOSMO-CLM(領域気象モデル)による統計的/力学的ダウンスケーリングにより、気候モデルの予測結果を分析したところ、欧州北部では発電量増加、南部では発電量減少の傾向が示唆された。このように具体的に自然エネルギーへの地球温暖化影響評価を行った事例はまだ少なく、非常に興味深い結果である。また、フランス国立科学研究センター(CNRS)のFrancois氏は、北大西洋振動と呼ばれる欧州に卓越した気候変動が風力等自然エネルギーのエネルギー市場における占有率(寄与率)に与える影響を評価し、市場の価格・占有率に大きな影響を与えていることを明らかにしていた。

◎Advances in statistical post-processing for deterministic and ensemble forecasts(気象予報モデルの出力補正法)
 本セッションでは、気象・気候予測モデルの情報活用のために、予報モデルの出力結果のポストプロセスに関する研究成果が発表された。ポストプロセスによる統計的・データ科学的出力補正は気象・気候予測情報を活用するうえで、欠かすことのできない処理であり、予測の精度の改善に大きく影響する。本セッションには、会場に座りきれないほどの聴衆が押しかけており、気象・気候予測情報の活用における関心が欧州の気象研究業界において著しく高いことが伺えた。DTUのPinson氏から、再生可能エネルギーの予測応用にむけたアンサンブル予報データの活用に関する研究紹介が為された。自然エネルギー研究においてDTUは世界の最先端を走っている。彼らは決定論的予報とアンサンブル予報のどちらにおいても、確率的な予報(PDF)に修正するための統計的なポストプロセスを実施している。ドイツのHemri氏やLerch氏、フランスのTaillardat氏からは、このポストプロセスとして、Ensemble model output statistics (EMOS)と呼ばれる手法が予測精度に与える影響と有用性を様々な指標に基づいて調査しており、欧州においてEMOSの活用が気象予測精度向上に中心的な役割を果たしていることがわかった。

3.所感

 本会議には欧州だけではなく、世界中からエネルギーや気候変動研究に携わる多くの研究者が参加しており、最先端でかつ質の高い発表を聞くことができる会議であると感じた。自然エネルギー・地球温暖化・気候変動に関するセッションは充実しており、広く関連分野の情報収集を行うとことができた。特に、気象予測情報を活用するための技術開発に関するセッションはかなり盛況であり、欧州における気象・気候予測情報の自然エネルギー等への情報活用に向けた応用研究への関心の高さをうかがい知ることができた。EDFといったエネルギー業界からも多くの研究者が参加しており、最先端の研究に触れるとともに良い情報交換ができた。この会議を介して、国外の研究者と交流が持てたことは非常に価値があることである。余談であるが、学会では地球科学と芸術・音楽といったセッションもあり、ウィーンらしさを感じることができた。また、市街も美しく、文化地理的にも、興味深い土地であった。

 本国外出張は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の電力系統出力変動対応技術研究開発事業の一環として実施された。

©2016 電力中央研究所

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