学会活動

学会活動

第5回クラゲ大発生に関する国際シンポジウム (5th IJBS) に参加して

生物環境領域 主任研究員
鈴木 健太郎

1.IJBSの概要

 近年、クラゲの大発生が世界各地から報告されている。大発生時には、臨海発電所にクラゲが大量流入し発電障害を生じることがある。当所は、発電所におけるクラゲ(主にミズクラゲ)の被害を軽減するため、その生態を研究している。報告者はクラゲ研究の最新情報の収集と研究成果発表のため、2016年5月30日から6月3日まで、スペインのバルセロナ水族館で開催された標記シンポジウム (International Jellyfish Bloom Symposium, IJBS)に参加した。
 本シンポジウムは、2000年に第1回大会がアメリカで、2007年に第2回大会がオーストラリアで開催され、その後アルゼンチン、日本、スペインで3年毎に開催されてきた。発表は全てクラゲに関するものであり、また、分類から生理、生態、社会科学と多岐に渡っているため、IJBSはクラゲ研究の最新動向を把握するには最適な場だと言える。
 第1回大会では参加者が数十人程度の小さな会だったが、第5回目の今大会では参加者210人と大幅に増加し、現地のテレビ局も複数入る等、クラゲに対する研究者・世間の関心の高さが伺えた(図1)。

図1 会場となったバルセロナ水族館の前での集合写真

2.5th IJBSにおける印象的なトピック

 近年の大発生で世界的に注目されているクラゲだが、その研究の歴史は浅い。海洋で代表的な動物プランクトンであるカイアシ類と比べると、クラゲの生態についてはほとんど分かっていないといえる。しかし、近年研究対象として着目されるようになり、知見が飛躍的に集積されつつある。進捗の見られた印象的なトピックについて以下に記す。

◎クラゲ発生量予測モデル

 前大会と比較して明らかに発表件数が増えたのが発生量予測モデルだった。未だ完成度は低いものの、生態系モデルにクラゲを組み込むアプローチに対する関心は高く、盛況だった。しかし、発生量予測モデルの精度に大きく影響を与える初期生活段階(ポリプ・エフィラ期)の生態に関する知見は著しく不足しており、今後取り組むべき重要な課題と言える。

◎クラゲ移動モデル

 クラゲによる被害予測等のために、クラゲ移動モデルを構築した発表が複数あった。報告者は本セッションにおいて「ミズクラゲの鉛直分布決定メカニズム」と題して、これまで知見のなかったミズクラゲの鉛直分布に対する密度躍層による作用機作を室内実験と数値シミュレーションで検証した結果を報告した(図2)。実験手法や数値シミュレーションの設定、今回得られた知見の今後の活用方法等について、質問があり、多くの研究者と議論することができた。クラゲ移動モデルに対するニーズは高いものの、モデルに入れるべきクラゲの鉛直分布特性に関する知見が少ないこともあり、多くの研究者が興味を持ってくれたようである。

図2 発表中の報告者
発表者の後ろに水槽が控えるという、水族館ならではの光景

◎クラゲ駆除

 クラゲは、漁業や臨海工業 (含、発電所) において多くの場合邪魔者である。そのため、いくつかの国では駆除に向けた動きがあり、成体クラゲの発生源であるポリプのコロニーを物理的に除去する、塩分を低下させて死滅させるといった複数の駆除方法が報告された。駆除に関しては韓国が世界に先駆けて成功しており、現在では大々的な駆除プロジェクトが進行中である。一方、クラゲが生態系内で果たしている役割については十分理解されているとは言えず、クラゲ駆除の生態系への影響を懸念する声も聞かれた。

◎齢推定

 生物の生態(特に個体群動態)を研究する上で、対象生物の齢情報は非常に有用である。ミズクラゲを含む鉢クラゲ類には、平衡胞(平衡感覚を感じるための器官)という微小な硬組織があり、その中には様々な大きさの平衡石が多数含まれている。魚類では硬組織である耳石を用いた齢推定技術が確立しており、鉢クラゲ類でも平衡胞を用いた齢推定が期待されてきた。しかし、平衡胞内での平衡石の形成過程は明らかにされておらず、平衡胞が齢推定に利用可能かは不明だった.ドイツSenckenberg am MeerのSabine Holst氏のグループは、micro CTを用い平衡石の形成過程や形状等、詳細な情報を得ることに成功し、平衡石の齢推定への利用の可能性が高まった。Holst氏とは、今後の平衡石研究に関してシンポジウム期間中に何度も議論を交わし、親交を深めることが出来た。

3.バルセロナ

 今回開催地として選ばれたバルセロナは、地中海に面したスペイン・カタルーニャ州の州都である。バルセロナの街中には、サグラダ・ファミリア教会に代表されるガウディ建築やピカソが壁に絵を描いた建物等の芸術が溢れている。また、中心部から徒歩圏内には美しいビーチが広がっており、多くの人で賑わっている。世界的に有名なサッカーチームであるFCバルセロナの本拠地(カンプノウ、図3)もあり、併設された博物館では数々のトロフィーが飾られていた。このようにバルセロナには数々の観光名所があり、多くの観光客が訪れる。

図3 カンプノウのピッチへと続く通路を歩けば気分はメッシ
帰りの航空便で手荷物がなくなり、この時買ったユニフォームは紛失(着用時間:30分)。

 スペインの食事は、パエリヤやイベリコ豚の生ハム等、日本でも人気の高いものが多い。中でも美味しかったのが、オリーブと酢じめのアンチョビーだった。どちらもワインがすすみ、最高である。バルセロナでワインと言えば、ポロンという特殊な容器がある。ポロンは尖った注ぎ口のついたデキャンターのようなもので、注ぎ口に口をつけないようにして中に入ったワインを飲む。ポロンから飲む場合には、高い位置に掲げてワインが口まで綺麗な放物線を描くようにするのが良いとされる。上級者は、オリーブオイルをかける速水もこみち氏の如く、目一杯上までポロンを掲げ上手に飲むが、素人がやるとかなりの確率でワインが顔にかかることとなる(図4)。報告者の顔も赤ワインまみれになったが、その結果、場の雰囲気が和み、初めて会った人ともすぐに打ち解けられた。ポロンのおかげもあり、洋の東西、老若男女問わず、多くのクラゲ研究者と知己を深めることができ、非常に有意義なバルセロナ滞在だった。

図4 ポロンからワインを飲む報告者
頬を伝う一条の赤ワインが美しい。

©2016 電力中央研究所

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