学会活動

学会活動

第10回欧州神経科学大会に参加して

生物環境領域 主任研究員
齋藤 淳史

1.欧州神経科学大会(FENS Forum of Neuroscience)について

 神経科学(ニューロサイエンス,脳科学とも呼ばれます)は,脳や体の神経系の構造や機能を研究の対象とする学問分野です。FENS(Federation of European Neuroscience Society,欧州神経科学会)のForum of Neuroscienceは,欧州諸国の神経科学会の共同で運営される神経科学分野では世界で2番目に大きな規模の学術大会であり,これまで1998年の第1回ドイツ・ベルリン大会から2年毎に開催されています。第10回目となる今回は,2016年7月2日から7日に,デンマークのコペンハーゲンで開催され,76ヶ国から約6,000人の研究者が参加し,大会期間中には100近いセッションおよび3,000件以上のポスター発表が行われました。本大会には,医学,薬学などの生物学系の研究者のみならず,数理,物理,電気,機械,情報,材料といった理工学系の研究者や社会科学系の研究者も参加しており,神経科学の研究に携わるあらゆる分野の研究者が一堂に会し,議論できる貴重な場が提供されていました。
 私は現在,電磁界ばく露による神経刺激作用の評価に関する研究を行っており,これまでの研究成果の発表および今後の研究に向けた情報収集を目的に本大会に参加しました。

2.会議における印象的なトピック

 本大会では,光遺伝学(オプトジェネティクス)と呼ばれる遺伝子工学技術を用いた神経回路機能の光操作や最新のデバイス・計測機器による脳深部神経活動の計測など,神経科学における最新技術を駆使して脳の複雑な機能を調べた研究発表が多くみられました。このような研究の調査を通して,生物学・工学分野の技術的進歩が神経科学の学術的発展に重要な役割を果たしていることを改めて実感することができました。
 基調講演では,「脳内の空間認知システムを構成する細胞の発見」に関する研究で2014年にノーベル医学・生理学賞を共同受賞した,ジョン・オキーフ博士(ロンドン大学),マイブリット・モーセル博士とエドバルド・モーセル博士夫妻(共にノルウェー科学技術大学)の3氏による発表を一度に聴講できるという大変貴重な機会に恵まれました。各氏の発表では「場所細胞」や「グリッド細胞」という脳の空間認知に関わる細胞を発見した経緯が紹介され,研究のヒントをカントの哲学から得たことや斬新な研究手法を確立する過程は私にとって学ぶことが多い充実した内容でした。また,そのユーモアあふれるプレゼンテーションは会場にしばしば大きな笑いを巻き起こしました。
 私自身は,大会2日目のポスターセッションにて“Development of a non-conductive fibre-optic imaging system for real-time detection of neuronal activity in electromagnetic fields”(電磁界中で神経活動をリアルタイム検出するための非導電性ファイバー型蛍光観察システムの開発)というタイトルで発表を行いました。電磁界中で神経細胞の活動をリアルタイムで検出する場合,電磁ノイズや振動等の人為的な外乱が計測データに混入してしまったり,コイル内の狭いばく露空間への計測装置の配置自体が難しいという問題があります。本発表ではこれらの問題を解決するために提案した新しい計測手法について紹介しました。発表時には,時間をオーバーしてしまうほど多くの参加者が訪れ,たくさんの質問・コメントを頂くことができました。特に,本システムの改良すべき点や,現在取り組んでいる研究テーマの解決に役立つ有益なアドバイスをいただいた他,私と同じく神経科学分野で電磁界の生物影響評価に携わっている国内外の研究者と意見交換できたことはとても有意義なことでした。また,他分野の研究者から本実験装置を血流計測や高温環境下でのがん細胞の死滅評価に利用できるかとの質問があり,本手法の意外な用途を私自身が気づかされる面もありました。

3.コペンハーゲンについて

 コペンハーゲン市内を歩いていて最も印象に残ったことは,自転車利用者の多さです(図1)。市内を通る車道のほぼすべてに自転車用レーンが設けられており,また電車内に自転車を持ち込むことができたり,街の至る所にレンタルサイクルが設置されていました。加えて,コペンハーゲンの観光名所は,ストロイエと呼ばれる通りを中心に地理的にコンパクトにまとまっていることもあり,観光にレンタルサイクルを使う旅行者も多く見受けられました。私自身も一度レンタルサイクルの利用を考えたのですが,自転車に付属した利用者用タブレット端末の操作方法がわからず,途中で諦めてしまいました。
 もう一つ印象に残った風景に風車があります。飛行機の離着陸時やホテルの窓からは海上に点在する多数の洋上風車を目にすることができました(図2)。また,学会会場となったベラ・センターの入場口の前には風車の羽根の実物が展示されており,その大きさに驚かされました(図3)。なお,以前は同じ場所に会場内で使用する電気を発電するための風車が設置されていたそうなのですが,本大会の前に撤去されてしまったとのことでした。
 後になって知ったことですが,環境にやさしい都市をつくることを「コペンハーゲン化する(Copenhagenization)」という言葉で表現するそうです。これはすなわち,自動車中心の都市をコペンハーゲンのように自転車利用者や歩行者が中心の都市に転換していくことを意味しています。実際,コペンハーゲンは自転車利用者を増やす政策によって二酸化炭素の排出量削減に成功しており,2014年には欧州グリーン首都賞を受賞しています。さらに,将来的には風力発電等の再生可能エネルギーの活用や地域熱供給,バイオマス発電を増やすことで2025年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を実現しようとする計画もなされています。このようなコペンハーゲンの環境政策に関する先進的な取り組みは,今後も注目していきたいと思います。

図1 コペンハーゲンの街中を走る自転車
車道に沿って自転車専用レーンが配備されています。

図2 海上に点在する洋上風車とコペンハーゲンの街並み
欧州最古の天体観測所であるランドタワーの屋上から撮影しました。

図3 学会会場となったベラ・センター
入場口の前には風車の羽根(実物)が展示されていました。
(写真におけるアーチ状の屋根のような構造物が風車の羽根)

©2016 電力中央研究所

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