EEトレンドウォッチ

第2回 
地熱発電と地域社会の共生を考える

環境化学領域
上席研究員 窪田 ひろみ
2016年5月2日

 2009年に地熱エネルギーを研究対象として以来、全国各地の地熱発電所や、地熱発電の計画・候補地域を調査しているため、温泉事業者の方々と直接お話する機会や、温泉に入る頻度が多くなりました。それまでは地熱発電所を見たこともなく、温泉にも全く興味がなかったのですが(温泉関係者の皆さまスミマセン)、今は日本の伝統ある温泉文化を少しずつ学んでいるところです。九州地方などでは、地面から湯けむりが沢山出ています(写真)。地熱に関しては、発電だけでなく熱の直接利用(浴用、融雪、調理、農水産業など)も可能であるため、各地域の未利用地熱資源を有効活用できれば、脱化石燃料や省エネにも貢献できることと思います。

自噴する湯けむり(熊本県小国町、筆者撮影)

 国による2030年度のエネルギー需給構造見通しでは、地熱発電の導入目標を現状(約52万kW)の約3倍に設定しています。我が国の地熱資源(2,347万kW)のうち約8割が自然公園内に偏在するとされていますが、山奥で道路も送電線もない自然豊かな地域も多いため、経済性や技術面だけでなく、環境面や周辺住民にも十分配慮した持続可能な開発が必要です。

 近年、国による規制緩和や固定価格買取制度(Feed-in Tariff: FIT)の導入、債務保証等の経済的支援など、地熱発電の開発リスクやコストを低減するための施策が講じられています。例えば、環境省では2015年度に自然公園内での建築物高さ規制と、第1種特別地域に対する傾斜掘削規制を緩和しました。また、経産省は、地熱資源開発に対する理解促進を目的に「地熱開発理解促進関連事業」を2013年度より実施しています。この事業の採択地域では、地域の方々が協力して地熱発電所の視察や勉強会を開催したり、熱水を活用した農業ハウス・足湯等を設置したりして、地熱資源に対する理解促進と有効活用への取り組みを進めています。それだけでなく、今後の地域活性化に向けて知恵を出し合い、議論することを通じて、参加者同士(温泉事業者、農業事業者、自治会代表者、自治体職員など)の相互理解も進みつつあります。

 これらの施策により、2012年7月のFIT施行以降、特に既存温泉を活用した中小規模(数kW~数千kW)の新規地熱発電所が20件近く増加しました。FIT認定された総数も50件を超え、今後さらに新規発電所の運開が見込まれています。ただし、新規掘削を伴う場合は、一部の温泉事業者等が温泉資源への影響を懸念することがあり、関係者間の調整に時間を要する結果となっています。一方、新規掘削なしで余剰温泉を活用する場合は、地域の反対も少なく、温泉事業者や地方自治体が発電事業者となる例もあるなど、比較的スムーズに事業開始に至っています。開発規模が小さい場合には環境アセスメントの対象外となるため、特に複数の開発計画が近接した地域では、既存の温泉や地熱発電所に影響がないよう、予め十分な調査を行い、また、対策に留意する必要があります。実際、これら中小規模開発の増加を受け、乱開発防止等を目的とした条例等を制定する地方自治体が増加傾向にあります。

 一方、大規模地熱発電(3万kW以上)については、調査掘削に対する地元合意が得られない等、事業計画が遅延・中止する案件が複数存在します。このため、現在建設中の山葵沢地熱発電所(4.2万kW)以外の開発には、まだまだ時間がかかりそうです。基本的には、地元の納得が得られる形で地熱資源量と地域事情に見合った持続可能な開発を進めていく必要があります。ただし、地域に眠っている地熱資源の有効活用という点からは、大規模地熱発電が可能な地域にもかかわらず、中小規模地熱発電の開発だけで終わってしまうのはもったいない部分もあります。地熱開発は、地上環境だけでなく、温泉資源など地下環境にも慎重な配慮が必要なため、開発事業者においては、近隣の温泉モニタリングなどの環境対策を継続的に実施する必要があります。そして、着実に開発を進めて成功事例を蓄積し、地域共生とエネルギー安定供給への寄与を増やしていくことが求められています。また、将来のリスクというものはゼロにはできないため、万一、温泉や自然環境に影響があった場合に備え、具体的なリスク対策(リスクの低減・回避、発生した場合の補償等)についても予め議論しておくことが重要です。

参考:窪田ひろみ・丸山真弘「地熱発電開発に関する社会的動向調査」電中研報告書 V15010 (2016.4)

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