EEトレンドウォッチ

第3回 
CCSを考える(1)CO2排出削減の切り札か?

大気・海洋環境領域 領域リーダー
上席研究員 下田 昭郎
2016年5月27日

 昨年12月にパリで開催された第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)では、産業革命以前からの世界の気温上昇を2℃以下に抑える目標が再確認されました。この“2℃目標”を達成するためには、世界のCO2排出量を2050年時点で現状よりも50%程度削減する必要があるとの試算があります。

 大気中のCO2は18世紀後半に始まる産業革命以降の化石燃料消費により増加を続けてきました。現在、世界の一次エネルギーの約9割は化石燃料により供給されています。世界の発電量の2/3は化石燃料から得られ、排出されるCO2は世界の全排出量の約4割を占めます。

 人類にとってチャレンジングなCO2の大幅削減を達成するためには、省エネ、エネルギー効率向上、再生可能エネルギーの普及拡大、技術革新、効果的な政策の発動、等々、あらゆる対策を総動員する必要があります。その中でCCS(Carbon dioxide Capture and Storage; 二酸化炭素の回収・貯留)は、大幅削減がコストミニマムに達成できる技術オプションの一つとして位置付けられています。2050年50%削減では、全削減量の2割をCCSに依存する必要があると試算されています。ちなみに、2008年の洞爺湖サミットでは、首脳宣言にCCS普及拡大への支持が盛り込まれました。

 CCSは、火力発電、天然ガス精製、鉄鋼、セメント、等のプラントで発生するCO2を回収し、パイプライン等で輸送し、地中数百メートル以深の地層に貯留する一連のプロセスの総称です。もちろん、貯留場所は地上への漏洩の確率が極めて低い地層が選ばれます。大気中へのCO2放出を抑制する手段としてのCCSは1970年代後半に提唱されています。それ以前から米国で行われていた石油増進回収(EOR)がアイディアのもとになっています。EORは、生産性が低下した油田にCO2を圧入することにより石油生産力を回復するものです。米国では、1986年に石油価格が暴落するまでEORに対して積極的な投資が続きました。その間、EORで利用するCO2を運ぶパイプラインも整備されました。なお、EORで注入されたCO2のほとんどは、地中の石油層等で発生した自然起源のCO2でした。

 現在、世界では15件ほどの大規模CCSプロジェクト(年間100万トン程度のCO2を貯留)が運用中ですが、そのほとんどは天然ガス精製プラントを対象としたものです。もともと天然ガスに随伴するCO2を回収する工程が精製プラントに組み込まれているため、CCSのための追加的なプロセスは輸送と貯留のみとなります。

 今後、特に期待されているのは火力発電でのCCSです。世界的に火力発電分野ではCO2排出原単位の高い石炭が最も利用され、石炭需要の約6割は発電によるものです。現在、世界で約2千件もの石炭火力発電所の新設計画が存在しており、今後も石炭需要は伸びることが予測されています。しかし、火力発電でのCCSは、期待通りには普及が進んでいない状況です。理由は、技術の不確実性、コスト増加、貯留の安全性、社会的な理解、政府の支援不足、等です。これまでにも、各国で火力発電のCCSプロジェクトが計画されましたが、建設に入る直前の投資判断で数十年という長期的な事業の見通しが得られないために中止となっているのが現状です。

 その様な中、2014年の10月に火力発電所としては世界で初めて、カナダのサスカチュワン州にあるバウンダリーダム石炭火力発電所で大規模なCCSの運用が開始されました(写真)。バウンダリーダムでの実運転は、将来的に電力需要が見込めること、政府の支援が得られたこと、回収したCO2をEORに売却することによる副次収入が得られること、等々、好条件が重なった結果と言えるでしょう。ただし、今後想定通りに運用されるかどうかは注視が必要です。

世界初のCCS付き商用石炭火力発電所(カナダサスクパワー社提供)

©2016 電力中央研究所

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