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第4回 
地球温暖化を考える(2)気候感度の不確実性と長期目標に対する考え方

大気・海洋環境領域
副研究参事 筒井 純一
2016年6月27日

 2016年5月に政府の地球温暖化対策計画が閣議決定された。この計画のまえがきでは、対策の前提となる科学的知見について、IPCC第5次報告の要点とともに、気候感度を例に、不確実性が残っていることが言及された。気候感度は専門用語であり、この種の文書に使われるのは少し意外な気がしたが、それだけ注目すべき問題ということの表れであろう。

 気候感度は、大気中のCO2濃度の増加などによって、地球表面の温度が平均でどれくらい上がるかを表す指標である。濃度の増加は産業革命以前の値(280 ppm)から倍増したときを基準にとり、諸々の変化が平衡に達した状態(数百年以上先)で考える。この場合、温度上昇は3℃くらいと考えられており、この値が「気候感度」注)としてしばしば持ち出される。

 この「3℃くらい」というのは、実のところ大きな幅であり、世界中の最新の研究をもってしても、可能性が高いとされる範囲が1.5℃から4.5℃におよぶ。CO2濃度が増加することで地表が暖められる(大気の温室効果が強くなる)ことは良く分かっているが、地球上には、温度の変化を拡大する仕組みがあり、その効果を定量的に評価するのが難しいのである。中でも、温度上昇に伴う雲の変化と、それがさらに温度の変化に影響する仕組みが複雑で、気候感度の不確実性の幅につながっている。気候感度は温度上昇に関する比例定数に相当するので、所定の温度目標(パリ協定では産業革命以前からの温度上昇を2?1.5℃に抑制)の達成に必要な排出削減量は、気候感度に大きく左右されることになる。

 具体的な計算例を図に示す。今後150年間の世界全体の排出量を二通り設定し、世界の多数の気候計算モデルのばらつきを考慮して、2100年時点に注目して温度上昇を確率論的に評価した結果である。排出量の少ない方をケースA、多い方をケースBとする。2050年の削減率は、2010年比でそれぞれ67%と37%である。

図 温度上昇の確率論的評価の例

CO2排出量と温度上昇の関係には、IPCC第5次報告にまとめられた多数の複雑な気候モデルの平均的な振る舞いと、気候感度の分布(ばらつき)を考慮。CO2以外の気候変化要因は、21世紀半ばに0.55 W/m2に達し、その後一定で推移する設定。右端のボックスプロット(箱ひげ図)は、気候感度の異なる多数の計算結果を温度上昇の順に並べた場合の下位から5, 25, 50, 75, 95%の範囲を示している。

 温度の予測幅(図の右端のボックスプロット)を2℃のラインと比べると、ケースAは大部分が2℃を下回り、パリ協定の目標(温度上昇2℃)に適合すると言える。ケースBは2℃を下回るかどうかは五分五分であるが、ケースAの予測幅と重なる部分が相当ある。つまり、両ケースは、排出削減量が大きく異なるのと対照的に、温度目標に対する適合性には大差がないとも言える。計算上は、気候感度が15%低くなると、ケースBも大部分が2℃を下回る。15%の差は、例えば気候感度が3℃から2.6℃になることに相当し、1.5?4.5℃の不確実性の幅と比べて十分小さい。

 もちろん、気候感度が想定以上に高い可能性も排除できないため、2℃を大幅に超える場合のリスク管理も必要となる。いずれにしても、不確実性の幅は、それこそ温暖化対策の根本を変えるほどに大きい。温度の目標が定まったとしても、それに対応する排出削減の長期目標とリスク対応は、現実の気候の推移と科学の発展とともに、適宜見直すのが合理的である。

 冒頭に述べた政府の計画では、2050年までに80%削減する長期目標が記載された。2℃に限らず温度上昇を止めるには、当欄第1回で述べたように、遠い将来に排出をゼロにする必要がある。したがって、80%減は世界全体としても到達すべき通過点である。ただし、その通過点がいつ頃になるかは、現在のところ相当広く見ておくべきである。

注) CO2濃度の倍増による加熱規模は3.7 W/m2程度である。当欄の第1回では、気候感度の目安として1 W/m2の加熱につき0.5℃くらいと述べた。実は、気候が平衡に達するには数百年以上かかるため、今世紀中の温度上昇としては、概ね平衡時の6割程度が目安となる。3℃の6割が1.8℃で、それを3.7で割って1 W/m2当たりに換算したものが0.5℃に対応する。

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