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第5回 
CCSを考える(2)CCS Ready(レディ)とは何か?

大気・海洋環境領域 領域リーダー
上席研究員 下田 昭郎
2016年8月30日

 人類や生態系、気候系に不可逆的な影響を与えないとして国際的に認知されている“2℃目標”の達成には、2050年までにCO2の排出量を現状の半分程度に抑える必要があるとされています。一方、多くの国では電力の安定供給に欠かせないインフラとして火力発電所の新設計画がありますが、その運用期間は40年を超えるため、一旦運用が始まると長期に亘ってCO2の大規模発生源として存続し続けることになり(カーボンロックイン)、目標達成を困難にすることが予想されます。

 第3回のコラムでも紹介したように、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)は石炭火力発電所などで回収したCO2をパイプラインやタンクローリ、船舶で輸送し、数百メートル以深の地層に隔離する一連のプロセスです。CO2の排出源として非難される化石燃料を持続的に使用しつつCO2の大幅な削減を目指す技術です。

 地球温暖化を防止するための切り札としても位置付けられるCCSは、技術的な成熟度、経済性、CCSの安全性に対する社会的な信頼不足、等々、多くの課題があります。これらの課題を克服するためには、様々な条件下における商用規模での実証試験が世界各国で実施され、成果が共有されることが重要です。10年程前には、日本を含む先進各国は2020年頃にかけて世界の20カ所程度の発電施設でCCSの実証プロジェクトを実施する道筋を立てていましたが、実際には想定通りの進捗はみられません。

 CCS機能を持たないプラントが運用されることによるカーボンロックインへの対応として登場したのが“CCS Ready”の考え方です。現時点では何らかの障壁によってCCSへの投資に踏み切れない事業者が、将来障壁が排除された段階でスムーズにCCSを導入できるように前もって準備をしておくことです。将来CCSの義務化によって発電所の運用継続が困難になることへの備えとも言えます。

 では、ここでいうReady(備え)とはどんなものでしょう。日本でも国内の石炭火力発電所に対するCCS Ready導入に関する議論が始まっていますが、英国では既に法律によりガスを含む火力発電所の新設に際しては、当該施設がCCS Readyであることが建設許可取得の条件となっています。そこでのCCS Ready条件は主に以下のようなものです。

(1) CO2の回収が技術的に可能なこと
(2) 回収したCO2の貯留場所までの輸送が技術的に可能なこと
(3) 回収したCO2を貯留できる場所があること
(4) 発電施設のCCSを伴った運用が経済的に成立すること
(5) CCSに関連した施設を増設するためのスペースが確保されていること

 火力発電所の新設を計画する事業者は、上記の条件を満たしていることを示す評価書を当局に提出し承認されることで建設許可を取得できます。英国ではこれまでに9件のガス火力発電所が新設許可を取得しています。

 では(5)の条件を満足するためにはどのくらいのスペースが必要なのでしょうか。図1は、英国の事業者が新設計画の許可取得に際して提出した評価書で示されたプラント配置図です。回収施設として発電施設と同程度のスペースを確保していることが確認できます。事業者にとっては少なからず負担となるでしょう。また、(4)の経済性評価では CO2の排出量取引価格を100ドル以上(現状は10ドル以下)に設定するなど、評価結果の信ぴょう性には疑問もあります。ちなみにCCS Ready政策を本格的に運用している国は現時点では英国のみです。

 CCS Readyは将来的なCCSの導入が前提の施策です。発電所の運用期間中にCCSを導入できる環境、例えば、技術的な進展、社会的な認知、法規制の整備等が整わず、結果的にCCSが導入されなければ、スペース確保などの関連投資は無駄になります。特に、事業者にとっては、現状で2倍程度となる発電コストの増加をどこまで低減できるかは重要な問題です。また、CCS Ready政策の有効性は、化石燃料への依存度や貯留場所の有無により国によって異なります。温暖化に関連する国際交渉を含め、世界全体あるいは国内の温暖化政策は未だ不透明です。確固たる政策なしにはCCSの将来的な普及は見通せません。現時点においてCCS Readyが将来への“備え”としてベストな選択肢かどうかは疑問なところです。一方で、現状ではCCSの他には火力発電所からのCO2排出を大幅に削減できるオプションがないのも事実です。

図1 英国の電気事業者が提示したプラント計画図面
事業者が許可申請時に提出した報告書*から抜粋し一部加筆

*Gateway Energy Centre, Environmental Statement CCS Feasibility Study. Feb. 2010

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