EEトレンドウォッチ

第7回 
コロラド鉱山大学滞在記

環境化学領域
上席研究員 窪田ひろみ
2017年1月16日

 2016年4月1日より1年間、米国コロラド州ゴールデン市にあるコロラド鉱山大学(Colorado School of Mines: CSM)のMining Engineering(鉱業工学部)に客員研究員として長期出張中です。今回は、米国での研究生活を8ヶ月経て、研究スタイル等について気づいた点を報告します。

1) 滞在地コロラド州ゴールデン

 ゴールデン市(人口約1万9千人)は、州都のデンバーから車で西に約25km離れた閑静で治安の良い地域です(写真1)。CSMは、ゴールデン市ダウンタウンの近隣にあります(写真2)。乾燥して雨の少ない気候はカビも発生しづらく快適ですが、日本のような便利で品質のよいお店やサービスが揃った日常生活とは大きく異なるため、日本の良さを改めて実感しています。例えば、スーパーでは、傷んだ果物や割れた卵の入ったパックも陳列してあるため、毎回しっかり確認して買わないと失敗します。また、冷凍食品や総菜類、調味料等は驚くほど多くの種類があるものの、口に合う味付けを見つけるのが大変で、日本食材も殆ど手に入りません。時々25〜30km離れたアジア系スーパーに行き、お米、納豆、ラーメン等を入手しています。時間と手間がかかる上に値段が日本の2-3倍するため頻度を減らしつつも、やはり日本食は欠かせません。

 本出張では、二酸化炭素回収・貯留(Carbon Capture and Storage; CCS)や地熱発電を対象とした低炭素技術導入におけるリスクコミュニケーション・社会的受容性等の研究に従事し、事例分析および動向調査を通して関連手法の習得に努めています。

2) コミュニケーションの場の活性化

 平日は毎朝、大学から学生・教員宛に届くメールのチェックから一日がスタートします。メールには学内のイベントの他、セミナーやワークショップ等の情報が掲載されており、様々な専門分野の講演を聴講して情報収集や人脈交流することができます。時間帯によっては食事やスナックが提供され、食べながら聴講することができるので時間が有効活用できます。

 先日、所属する研究室の学生の博士論文最終審査会が12時から開催されました。教室は宅配ピザの香ばしい匂いが充満し、飲物、クッキーやパウンドケーキ等が準備されていました。審査する先生方や、聴講に来た学生らはそれらを紙皿に取って席に着き、約30分の発表を聴講して質疑や審議に入ります。スーツ姿は発表者だけで、皆がピザをモグモグほおばりながら晴れの舞台である博士論文の審議が行われるという光景に大変驚きましたが、こちらでは普段も先生がリンゴやバナナをかじりながら講義を行ったり、昼食を取りながら会議を行ったり、小中学校でも授業中にガムを噛んでいる先生や生徒がいるので、私が感じるような「行儀が悪い」という感覚があまりないのかもしれません。

 一方、会合の前後や最中の飲食は、立場の異なる人々が円滑にコミュニケーションを進める上で、潤滑剤としての重要な役割を果たします。これまで米国で参加した2か所の地質調査に関する地域住民説明会でも、スナックや飲物の準備は必須でした(写真3,4)(以前、豪州で参加したCCSに関する4カ所の住民説明会でも毎回必ず飲食物を準備していました)。互いの意見や価値観が異なり、初対面も多い対話の場では、一般的に固い雰囲気になりがちですが、一緒に飲食しながら話すことで、気軽に話せる雰囲気を作り易くなるものと考えられます。

 事業開発における地域住民とのコミュニケーションでは、相互理解と信頼醸成が重要であり、事業全体のリードタイムに影響を及ぼします。日本の場合、学生の頃から皆の前で質問や議論することに慣れていないという国民性もありますが、住民説明会や対話の場では、議事次第どおり進行して事なきを得て、質疑応答時間は短く、別途、懇親会や食事会の場で少しずつ本音が語られるという場合も少なくありません。ただ、毎回このような方法では相互理解するまでに時間を要するため、効率が悪くなります。日本での対話の場の設計の際も、食事時間を活用したり、おやつを準備したりする等、限られた会議時間をできる限り有効活用し、日頃からコミュニケーションをより活性化できるよう、飲食を共にする場作りについてもう少し工夫・検討する余地があるのではないかと思います。

3) Social License to Operateという考え方

 企業は、社会や環境と共存しながら持続可能な発展を図るため、その事業活動による社会や環境への影響に責任をもつことが重要であり、それは企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility; CSR)と言われています。CSRは、企業側の立場での意味合いが強いですが、鉱山開発の分野では、10数年程前からSocial License to Operate(SLO)という概念[1]が生まれ、SLOを得るためのCSR、あるいはCSRの結果としてSLOの獲得が重視されてきました。

 SLOとは、企業が資源開発等の事業活動を行う際に、社会貢献や環境対策への投資や、地域の安全性や情報の透明性の確保等を継続的に行うことで、地域社会や利害関係者側が、その企業やプロジェクトに対して継続的に受け入れるライセンスを意味します。ライセンスとは言っても法的なものではなく、無形で目に見えない、コミュニティからの進行中の承認レベルのため、定量的評価が難しい部分もあります。SLOには4つのレベル(撤退・拒否、受容〜許容、承認〜支援、共同所有)があるとされています(図1)。殆どの企業やプロジェクトの場合、第2、3レベルの範囲にありますが固定的ではなく、企業や利害関係者の行動や時間経過等によりそのレベルは流動的に変化する可能性があります。

 CSM内でも、関連する社会科学系の研究者が南米等の鉱山地域でSLO研究を進めており、社会科学的な手法を用いて評価・分析をしています。近年、地熱やCCSなど鉱山開発以外の分野においてもSLO関連の研究が増えつつあります。今年8月には、コロラド州にある小さな町を対象に、SLO分析のためのインタビュー調査やアンケート調査に協力する機会を得ました[2]。これまで実施してきた調査とは質問項目等が異なる部分もあり、勉強になりました。

 日本ではCSRやリスクコミュニケーションの概念は広まりつつありますが、SLOという概念が馴染むかどうかはまだわかりません。ただ、内容的に大きな違いはないため、SLOの成功事例や良い点は取り入れ、我が国で適用可能なコミュニケーション手法や地域共生のあり方を研究していきたいと思います。

引用元: http://www.lbaaf.co.nz/legal-framework/social-licence/

図1. SLOにおける4つのレベル

参考文献

[1] http://socialicense.com/index.html

[2] Kyle Bahr et al., 2016, Social Licence to Operate in Geothermal: A Case Study, B44, 日本地熱学会平成28年郡山大会

©2016 電力中央研究所

トレンドウォッチトップへ戻る