EEトレンドウォッチ

第8回 
発電所周辺海域の合理的かつ効率的な環境調査へ向けて

水域環境領域
上席研究員 
坂井 伸一
2017年2月27日

●発電所の臨海立地の理由

 我が国の火力発電所や原子力発電所のほとんどは沿岸域に建設されています。これらの臨海発電所では、化石燃料やウラン燃料から燃焼等により水蒸気を発生させ、蒸気タービンで発電します。タービンを通過した水蒸気は復水器で冷却され、作動流体として再利用されます。この水蒸気を冷却する際に海水を利用することや、燃料調達の利便性などの面で、発電所は沿岸域に建設されているのです。

 水蒸気の冷却に用いた海水は、温排水として海域に放流され、周囲の海水と希釈・混合しながら拡散します。このため、臨海発電所を建設する際の環境影響評価(環境アセスメント)においては、温排水の拡散予測が重要な評価項目のひとつとなっており、予測結果は環境影響評価書として開示され、国や自治体、漁業等他の海域利用者との協議に活用されます。

●海域調査の現状と課題

 温排水の拡散予測は、水理模型実験や数値シミュレーションなどの手法によって実施されます。温排水拡散予測においては、発電所周辺海域の流速(流れの向きと大きさ)や水温、塩分などの物理環境の情報が必要であり、これらの情報を事前に把握しておく必要があります。そのため環境影響評価では、通常年4回の海域調査が行われています。また、発電所の運開後も、環境影響評価結果の確認を目的としたモニタリング調査が実施されます。モニタリング調査は、火力発電所では通常運開後3カ年にわたり年4回の調査が行われ、原子力発電所では同様の調査がほぼ毎年行われています。このように、海域の環境調査は発電所の建設・運用において、非常に重要なものとなっています。

 現行の海域調査では、船や係留ブイに計測器を取り付けた海上観測が主として行われていますが、複数の船舶操船や係留機器の設置作業を伴うなど調査が大がかりなものになり、調査に要する費用も多額になります。また、地元関係機関との調整や対応にも時間を要するといった課題があります。さらに、冬季調査では、風浪の影響によって計画通りに海上観測を実施できないといった事態が発生し、全体の工程に影響を及ぼす場合もあります。これら現行の調査手法の課題解決へ向け、合理的かつ効率的な海域環境調査手法の開発が望まれています。

●火力発電所リプレースに関する近年の社会的動向

 現在、電気事業においては、地球温暖化対策としての低炭素社会の早期実現や、東日本大震災以降の逼迫した電力需給バランスの安定化を目指し、老朽化した石油や石炭を燃料とする火力発電所に対する高効率火力発電所へのリプレース(建て替え)計画が進められています。一方、国においても、2010年9月に閣議決定された「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」の中で、関係省庁間で老朽火力発電所をリプレースする場合のアセス合理化についての技術的な検討が行われ、2012年3月に「火力発電所リプレースに係る環境影響評価手法の合理化に関するガイドライン」が策定されました。本ガイドラインでは、大気汚染物質や温排水等の環境負荷低減が図られ、かつ土地改変による環境影響が限定的な案件を対象に、環境評価手続きに要する期間を短縮するための技術方策がとりまとめられています。これにより、既存の数値モデルや観測データを活用することで、大気や温排水に係る現地調査や拡散予測を簡略化することが可能となり、環境影響評価手続き期間を1年程度短縮することが期待できます。合理的かつ効率的な海域環境調査手法の開発は、簡易的な観測データの取得に繋がることに加え、環境影響評価の迅速化という社会的要請にも寄与することができます。

●遠隔探査技術による環境調査効率化への期待

 効率的な海域環境調査手法として、リモートセンシングと呼ばれる遠隔探査技術を使った手法があります。これまでに、人工衛星や航空機にセンサーを搭載した遠隔観測手法が開発されており、様々な分野で利活用されています。しかし、発電所前面の海域環境調査への適用性という点で見ると、人工衛星の場合は空間的な分解能や観測頻度の面で課題があり、また一部で実利用されている有人航空機観測においても、多額の費用が必要になるといった課題があります。

 このような状況に対し、近年、沿岸域の観測に適した遠隔探査調査手法が開発されつつあります。例えば、海洋レーダと呼ばれる観測技術は、海岸付近の陸から海に向かって電波を照射し、海からの反射信号を解析することによって海表面の流れを測定することができます。当所は、沿岸域の海域調査に適した精度を持つ海洋レーダを独自開発するとともに、複数の海域における既往の流速計を用いた測定方法との比較調査を通じて、流速測定装置として実用段階にあることを検証しました(図1)。

 さらに、最近では、ここ数年急速に低価格化が進んでいるUAVまたはドローンと呼ばれる無人航空機の産業応用が検討されていますが、当所はこれに熱赤外カメラを搭載した水温観測システムを開発し、温排水拡散に係る海域調査の効率化に取り組んでいます(図2)。現在、実際の海域において取得したデータの測定精度や最適な飛行方法やその安全性について研究しています。

 これらの沿岸域の観測に適した遠隔探査技術は、費用削減効果の面だけでなく、広域を長期間にわたって連続または繰り返し観測でき、船舶では観測が困難な浅い海域や波が高い状態でも観測できるため、不明な点が多い自然現象の解明にも役立つと期待されています。加えて、陸上から測定できるため、タンカー事故など緊急時の観測にも対応することができ、運用上の保守・点検も容易であるといった利点もあります。

 当所は、環境影響評価やモニタリング調査の迅速化を目指して、上記遠隔探査技術を利用した合理的かつ効率的な観測手法の開発に取り組んでいます。また、観測データをデータ同化モデルと呼ばれる数値シミュレーション技術に融合することで、観測データのない海域内部の環境状態を推定する研究にも着手しています。これらの研究により、最新の調査技術を環境影響評価などの実務に活用する際の課題を解決し、手法の適用性や実用性を検証することで、発電所周辺の海域環境の理解促進と社会的受容性の向上に貢献したいと考えています。

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