J-HPESの改良およびヒューマンファクター事象の傾向分析法の提案



背景


 原子力発電所をはじめとする各事業所においては、近年、軽微なヒューマンファクター事象(ヒューマンエラーに起因するトラブル)に関する情報を共有化する動きがある。しかしながら、各事業所において、個別事象の体系的分析、全体的な傾向把握、また分析結果の活用に関する効果的な方法が確立されておらず、共有化した情報を活かしきれていない状況にある。電力中央研究所ではJ-HPES注)を開発し、同手法により、国内外の原子力発電所の事象を継続して分析・評価・教訓化している(1)。このノウハウを活かし、前報告では原子力発電所におけるJ-HPESによる分析を支援するための基本的な考え方を提案した(2)が、利用性・適用性の向上が望まれている。


目的


 事業所内で共有化された軽微事象を含むヒューマンファクター事象に関する情報の有効活用に資するため、事象分析の基本的な考え方を事業所の業務の流れに合わせて再構築する。また、この考え方を基にした個別事象分析手順、および、共通的な特徴を抽出するための傾向分析手順を提案する。


主な成果


(1) J-HPESの改良
 前報告(2)で提案した分析対象行為(事象の引き金となった行為)の背後要因の分類枠組みを、事業所における業務の推進方法を念頭に検討し、この枠組みを用いてJ-HPESの分析手順を再構築した(図1左)。この手順により、ヒューマンファクターの知識や分析経験が豊富でない実務者でも、統一的な視点での情報収集・分析が可能となり、日常管理の問題点を含む背後要因の特定が容易になる。

(2) ヒューマンファクター事象の傾向分析法の提案
 上記(1)の手順に基づく個別事象分析結果を蓄積したものに対する、傾向分析手順を検討した(図1右)。 一定期間に発生した事象の分析対象行為に対し、分類枠組みに基づく背後要因カテゴリー(実施段階[人]の行為-確認、実施段階[作業]の作業特性-作業内 容など)の各々が関与している割合を算出し、高いものについては個々の背後要因の具体的な内容から共通的な特徴を抽出する手順とした。


[参考]


本研究の成果を紹介した電中研ニュース №432 がダウンロードできます。

注)電力中央研究所が1990年に開発したヒューマンファクター事象の分析・評価手法であり、「事実関係の調査」「背後に潜む原因の分析」「対策の立案」を行うものである。



[引用文献]




[関連報告書]


電力中央研究所報告Y05010 「トラブル未然防止に向けたヒューマンファクター事象の傾向分析 -分析手法と結果の活用法の検討-」