原子力発電所の緊急時における運転員の情動に関する調査



背景


原子力プラントにトラブルが起きた場合、運転員はさまざまな情動(状況に応じて刻々と変わる比較的激しい感情)を感じ、時にはこのような情動が冷静な判断や行動を阻害してヒューマンエラーを引き起こす可能性がある。そこで情動が喚起されやすい状況や、運転員の個人特性が情動に及ぼす影響などについて把握することが重要である。


目的


プラントトラブル時において運転員が感じる情動を明らかにし、事態に対する予測の有無や個人特性が情動に及ぼす影響を明らかにする。


主な成果


原子力発電所運転員を対象としてアンケート調査を行ったところ、以下の傾向が明らかになった。

1.予測の有無による影響

①運転員は、予期せぬ状況に遭遇するとヒューマンエラーに結びつきやすい情動(混乱・不安など)を感じやすいが、状況を予測していると、気持ちが変わらない、あるいはよりよい判断や行動に結びつきやすい情動(安心・確信など)を感じやすい(図1)。

2.個人特性による影響

(1)性格による影響

①プラントに予期せぬ事態が生じた場合に、自己効力感(自分がその事態に効果的に対処できるかどうかに関する予測。問題解決に際し、重要な役割を果たす性格特性の一つ)の高い運転員はヒューマンエラーに結びつきにくい情動(警戒・緊張など)を感じ、自己効力感の低い運転員はヒューマンエラーに結びつきやすい情動(心配・不安など)を感じやすい(図2)。
②操作がうまくいかない場合や対人関係が悪い場合は、自己効力感の高い運転員の方が自己効力感の低い運転員よりも激しい情動(いらだち・混乱・後悔など)を感じやすい。

(2)運転経験による影響

①プラントに予期せぬ事態が生じた場合、運転経験の短い運転員(5年程度)はヒューマンエラーに結びつきやすい情動(混乱・不安・焦りなど)を感じる一方、運転経験の長い運転員(15年程度)が感じるのは注意力向上に伴う情動(警戒・緊張など)である。
②運転経験の短い運転員は、予期せぬ事態が生じた場合に驚きを感じやすい。またプラント状態が予測できている場合でも不安を感じやすい。

(3)運転チームに対する帰属意識による影響

①プラントに予期せぬ事態が生じた場合、帰属意識の低い運転員の方がヒューマンエラーに結びつきやすい情動(不安・心配・混乱・焦りなど)を感じる一方、帰属意識の高い運転員が感じるのは注意力向上に伴う情動(警戒・緊張など)である。
②対人関係が悪い場合は、帰属意識の低い運転員は相手に向ける情動(いらだち・怒り・嫌気など)を感じやすく、帰属意識の高い運転員は自分自身に向ける情動(残念・忍耐など)を感じやすい。




(図1)


(図2)