電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

Y07007

タイトル(和文)

米国の国内排出権取引をめぐる政治動向の分析

タイトル(英文)

U.S. Legislative Politics on Domestic Cap and Trade

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

連邦議会の上下両院の動向、州の動き、及びポスト京都議定書をめぐる国際動向を分析した結果、3つの問いに対して、以下の答えを得た。
① 連邦レベルの排出権取引が成立する可能性はあるのか?
可能性はある。2005年に上院で行われた温暖化対策に関する投票を分析した結果、
厳しすぎないという条件付きでC&Tを支持する中道路線の議員が超党派で存在し、この議員たちがいることでC&Tの支持層が多数派になることが明らかになった(表)。現在、採決の鍵を握る中道路線の議員と、より厳しい対策を求める民主党議員の多数が相乗りできる内容の法案が模索されている。一方、下院では、2007年10月現在、エネルギー商業委員会のディンゲル委員長(民主)が広い支持を得られるC&Tの設計を立案中である。
ただし、成立のタイミングは、2つの理由で不透明である。第一に、詳細制度設計に時間を要する点がある。排出権取引は複雑な制度であり、細部を操作することで支持層が微妙に変化する。現在までのところ、十分な支持を得られる詳細設計は見つかっていない。第二に、大統領の拒否権がある。大統領は議会から送付された法案に拒否権を行使できる。仮に本会議を通過するのに十分な支持が集まっても、大統領が拒否権を行使する可能性がある。
② 成立する場合、どの程度の排出削減が義務化されるのか?
排出量を2020年までに現在のレベルに抑え、2030年までに1990年のレベルに戻す、あるいはそれよりも若干厳しい水準が、現在までに提出されている上院法案の相場観となっている。ただし、米国の環境規制では、立法がなされた後に、訴訟等によって、規制値が緩められたり、実施が遅れたりすることが多い。上記の削減スケジュールが法律となっても、そのまま実施されるとは限らない。
また、エネルギー省のエネルギー情報機関(EIA)の推定によると、上記の相場観の排出削減を実施する際には、その半分以上が農業部門のオフセットと海外からのクレジットで埋め合わされるため、実際にエネルギー関連部門で削減される排出量は相場観が示唆するより緩い水準に留まる。
③ 成立する場合、米国内立法後の国際展開はどうなるのか?
現在、米国の国内立法は、国連気候変動枠組条約の締約国会議や主要先進国首脳会議(G8サミット)といった国際交渉から影響を受けずに、国内的な事情を優先して進められている。そのため、米国は、国内での決定事項(例えば、2020年の排出上限)をそのまま国際的な枠組みに移植しようとするだろう。また、上院の有力法案には、主要な発展途上国への働きかけのために、技術の導入支援というインセンティブと、米国水準に相当する対策をとっていない国からの製品を輸入する業者への排出枠提出の義務付けという貿易措置が取り入られている。国内立法後、米国政府は、これらの措置を通じて、発展途上国に対する働きかけを強めるかもしれない。

概要 (英文)

This report analyzes U.S. legislative politics on a domestic cap-and-trade scheme till the end of October 2007 and discusses its implications for U.S. engagement in post-2012 international climate regime. After the Democrats got majority of both houses in early 2007, U.S. Congress started policy formulation of a domestic cap-and-trade scheme. In the Senate, key players are moderate Senators who support cap-and-trade with cost control measures such as safety valve and extensive use of borrowing and offset. They do not support a policy without cost control. I analyzed positions of all the Senators on cap-and-trade and found that necessary votes for passage of a cap-and-trade bill cannot be gathered without support by the moderate Senators. Currently, several moderate Senators are intensively working on drafting a bill that includes cost control measures. In the House, Representative Dingell, the Chairman of the Committee on Energy and Commerce, is drafting a bill that can gain support from various constituencies. Considering political influence of moderate Senators and Chairman Dingell, it is expected that their efforts result in final legislation at some moment in the future. On engagement of the United States in post-2012 international regime, it should be noted that, even after the federal government eventually adopts domestic cap-and-trade, it is still difficult for the United States to rejoin a Kyoto-like top-down international target setting. Once the United States adopts targets and policies domestically, it is hard to change them, since they are rooted in delicate political balance. U.S. participation in post-2012 regime may happen, but depth of participation is likely to be constrained by such domestic political reality.

報告書年度

2007

発行年月

2007/11

報告者

担当氏名所属

上野 貴弘

社会経済研究所 エネルギー技術政策領域

キーワード

和文英文
キャップ・アンド・トレード Cap and trade
米国議会 US Congress
ポスト京都議定書 Post-2012 climate regime
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