社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

2016年11月2日

「研究という営み」と農業の関係

社会経済研究所長  長野 浩司

 「社経研メルマガ」には、配信開始のアナウンスから短期間の間に、多くの方にご登録を戴きました。改めて御礼申し上げます。少しでも有益かつ魅力的なコンテンツをお届けするよう、今後も努力してまいります。

 今回は、私どもが生業としている「研究」という行為もしくは営みについて考えてみたいと思います。

自然科学や技術の研究であれば、それこそただ一つの「ライフワーク」的テーマ(未発見の恒星・惑星・彗星の発見、癌の根治など)を自らの生涯をかけて追い求めるというスタイル(注1)もあるでしょうが、こと社会科学、しかも顧客を持つ商業的社会科学研究(妙なネーミングですが)のスタイルは、恐らくそれとはかなり異なり、個人的実感としては「農業」のような性格を帯びる(注2)のではないかと考えています。

 農業は、まず畑を特定し、どの作物を植えるかを決め、種を蒔き、水や肥料を手当てし、時間経過とともに大切に育て、実れば収穫し、製品として出荷する。1年でこのサイクルを完了し、これを繰り返します。

 研究の場合は、問題設定から始まります。これは、畑と作物を決めることにあたります。次に、その作物を育てるのに必要なデータや分析ツールを揃えていきます。時間をかけ、労を惜しまず丹精込めて育てた果実は、研究報告書や論文の形で出荷します。

アマチュアと異なり、プロの研究者であれば、顧客が必要とするタイミングに遅れることなく、少しでも付加価値の高い製品を収穫してお届けすること、さらには同様のサイクルを確実に繰り返して行くことが求められます。

 農業もそうですが、研究においても、個々のプロセスにおいて、高いレベルの能力と、それを余すことなく発揮する誠実さと熱意が要求されます。

まず、畑と作物、肥料や施水量の各々の、さらに相互の特性を正しく把握し、最適な選択をすること。これを誤れば、良い成果は得られません。そして、社会科学研究ならではの要点として、出荷時期や、お届け先や梱包方法(発信の媒体とメッセージング、想定読者の選択)を誤れば、良い作物でも市場価値を失うという点は、日々痛感するところです。

 個人的にもう一つ思うことは、社会科学研究においては、世に現存する「悪いこと」を解決ないし緩和したい(犯罪の撲滅、「待機児童」の解消など)、「良いこと」を最大化したい(組織風土の改善、など)と念じる、心底から湧き上がり自らを突き動かす情動のようなものを推進力として、その研究に携わるべきだ、という点です。

格差や貧困の解消といった根深い問題もあれば、あるアイディアを商品化するようなケースもあるでしょう。私どもが研究対象とするものは、経済にせよ法・制度にせよ財・サービスにせよ、人間が手掛けるものです。

人間である以上、常に不完全なものであり、より良いものを探求し編み出し続けることが求められます。そのような絶え間ない努力の連鎖に、自らの持つ能力とエネルギーの全てを注ぎ込みたいと熱望することが、私どもを「研究」という営みに駆り立てる源泉となるのです。

 今後も、高度な能力と科学的誠実さに裏打ちされた、的確かつ効果的な問題設定、分析手法の選定、研究の遂行を通じて、良質かつ有益な成果をタイムリーにお届けしたいと、切に念願しております。

また、それを繰り返し実践し向上していく上で、先達や同業者のアドバイスも貴重ですが、何よりも顧客である皆様からのご要望や叱咤激励、あるいは良い成果へのお褒め、そして逆の場合には厳しいお叱り、などのお声掛けを頂戴することが、研究という生産活動を営む指針になるとともに、最大の精神的拠り所とも、研究者としての成長の糧ともなるのです。

 皆様からのいろいろなご批判、ご意見、ご要望を賜れば幸いに存じます。

  • 注1:農業との対比で言えば「造園」に例えることができますでしょうか。実は、当コラム「読書日記(2)」では、この研究スタイルを「栽培型」と表する一方で、ここで主題とした問題解決型の社会科学研究のスタイルを「狩猟型」と表現しました。自分で一度狩猟と呼んでおきながら掌を返すかの如く農業に例えるのは、些か無定見かつ無節操なようですが、どちらも不思議と実感に合っているのです。強いて言えば、問題の選択においては狩猟的に機敏に、選択した問題を解く過程では農業的に精魂込めて、ということです。
  • 注2:電力中央研究所Annual Report 2015 p.12「成果の概要:事業経営」では、「エネルギー・環境制度の評価・分析」の見出しの下に、2015年度の研究成果のうち以下の3点を挙げています。「電力システム改革の詳細制度設計」「地球温暖化対策枠組み」は、1990年代以来の制度の変遷を丹念に追い続けた、どちらかと言えば「造園」型の果実です。「原子力発電における安全目標の活用」は、問題設定から結論までを期間内に達成した「農業」型の果実といえます。また、同p.54-55では、小売全面自由化後の競争評価の研究を紹介しており、これは今後じっくり時間をかけて造園を進めたいと考えているテーマです。p.56-57のPV大量導入時の課題解決の制度設計は、単品としては1年間の農業的生産の成果ではありますが、これも永年にわたって追いかけてきた問題に対するまとまった回答の提示でもあります。既に旧聞に属するきらいはありますが、いずれも私どもの2015年度研究成果の「目玉商品」ですので、よろしければご覧下さい。

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  • 研究者プロフィール

    2017年4月1日現在

  • 電力経済研究

    2017年3月17日更新

  • 社経研コラム class=

    2018年2月20日更新

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