社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

2017年7月6日

「攻め」の仕事、「守り」の仕事

社会経済研究所長  長野 浩司

 弊所(電力中央研究所)でも、7月に定時人事異動が行われました。弊所には、いわゆる研究部門/研究系職員だけでなく、事務部門があり、事務系職員が在籍しています(注1)。私ども社会経済研究所などの研究部門にも、研究管理スタッフと称する事務系職員が在籍し、今回はそのうち1名が交代になりました。その歓送迎会の席上、所員に向けて話したことを、ここに書き留めておきたいと思いました。よろしければご笑覧下さい。

 「仕事」といっても多種多様で、その全てが企業や社会を形作る上で必要なものですが、大きく2種類に分けることができると思います。
 1つは「攻め」の仕事です。財・サービスを生産し、それを宣伝し、営業して売り込んでいく。私どもが取り組む研究開発も、その一端に加わります。これらは、「良いこと」を増やし、大きくすることを目的としています。
 もう1つは、「守り」の仕事です。総務、経理、あるいは知財やERPなどのITプラットフォームなどが含まれます。これらは「悪いこと」を未然に防ぎ、もし発生してしまえば早期にこれを収束させ、被害を最小限に留めることが任務です。

 いずれも必要かつ重要なものですが、この2つには大きな差異があると思います。
 前者は、成果や貢献をデータや事実に基づいて証明し、アピールすることが、比較的容易にできます。営業でいえば、売上高のように明瞭なデータで全てを語ることができます。研究開発でも、製品化・実用化といった事実や、質の高い論文などの形で成果をアピールすることができます。
 しかし、後者はどうでしょう。「悪いことが何も起きていない」こと自体は優れた成果であり貢献ですが、それが何によってそうであったのか、担当チームの努力の賜物なのか、たまたま本当に何も起きなかっただけなのか。観測できる客観的なデータや事実がないのですから、成果を測定したり評価したりすることは(不可能ではないとしても)かなり困難なのではないでしょうか。(注2

 「攻め」の仕事に従事する研究系職員に向けては、背後をしっかり守ってくれている職員の存在があるからこそ研究に全力を注げるのだという事実を常に胸に留め、心強く思い、後顧の憂いなく一層力を発揮するよう話しました。また、「攻め」の仕事では、打席に入って一度もバットを振らず見逃し三振、というようなことはあってはならないと思います。与えられたチャンスを活かすよう、とにかくバットを振ってみること、最終的に良い結果を生まなくても、それは監督やコーチの責任なのであって、伸び伸びと挑戦してもらいたいことも伝えました。
 事務系職員は、概して守りの側の仕事を担当するものです。その貢献は、評価する側としてしっかり見届け、拾い上げるようにしなければなりません。その一方で、上にも例示しましたが、少ないとはいえ攻めの仕事もあるものです。事務系職員であっても、打席に立つチャンスを見つけたら、躊躇なく名乗りを上げてバットを持ち、挑戦してもらいたいということも申しました。

 人事異動を、新たなチャンスの到来とも、チームワークのあるべき姿を見直す機会ともしていくよう、努力したいと改めて感じた次第です。

  • 注1:弊所の2016年度末時点の人員数は、研究系職員642名、事務系職員83名、計725名です。研究活動や成果なども併せて、より詳しい情報をお知りになりたい方は、Annual Report 2016年版をご覧下さい。
  • 注2:「悪いことが何も起きない」ことを評価する、という難問は、「エネルギーセキュリティ」の定量評価と相通じるものがあるように感じられます。弊所もこの難題に挑み、できる限りの接近を試みましたが、まだまだ努力の余地は大きいと感じさせられました。少し古い資料になりますが、ご興味ある方は下記をご覧下さい。
    長野他「原子力の燃料供給安定性の定量的評価」研究報告Y07008 (2008年)

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