社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

2018年2月7日

2018年のグローバルリスク

社会経済研究所長  長野 浩司

○世界経済フォーラム「グローバルリスク2018」

 米国・トランプ大統領も出席したことで一層注目を集めた、世界経済フォーラム(通称「ダボス会議」)の年次総会が1月23日から26日までの日程で開催されました。それに合わせて毎年公刊されている「グローバルリスク」報告書については、本コラムでも以前ご紹介(グローバルリスクの変貌、2017/2/20、注1)しましたが、最新の2018年版(第13版、注2)が公開されたので、さっそく見てみました。

 前報でもご紹介しましたが、この報告書は世界の有識者700余名へのアンケートに基づくもので、その時々に耳目を集めた要因がハイライトされる傾向があります。2018年版を2017年版と比較すると、少なくともリスク要因の「蓋然性」「影響度」のランキングトップ5に関しては、例年になく変動が小さかったといえます。表をご覧下さい。

 表:グローバルリスク2018の「蓋然性」「影響度」トップ5
(カッコつき数字は、2017年版での同項目の順位)

2018年版での順位 蓋然性 影響度
1位 極端な気象イベント(1) 大量破壊兵器(1)
2位 自然災害(3) 極端な気象イベント(2)
3位 サイバー攻撃(6) 自然災害(4)
4位 データ瑕疵及び盗取(5) 気候変動の抑制・適応の失敗(5)
5位 気候変動の抑制・適応の失敗(11) 水危機(3)

(Global Risks 2017および2018を元に筆者作成)

(凡例)青字:経済的(Economic)リスク
    緑字:環境(Environmental)リスク
    橙字:地政学的(Geopolitical)リスク
    赤字:社会的(Societal)リスク
    紫字:技術的(Technological)リスク

 報告書冒頭の図Wに、2008年版以来の「蓋然性」「影響度」ランキングトップ5が示されています。細かい項目はさておき、それら重篤リスクの分類に注目すると、2010年以前は経済的リスクが顕著であった一方で、2010年以降は環境リスクが台頭し、現在まで続いているといえます。2008年のリーマンショックなどから、金融部門が著しく不安定化していたことが大きく影を落としたものの、その後これら要因が急速に緩和し、その陰に隠れていた環境リスクが取って代わったということでしょう。また、地政学的リスクは、現れては消え、また現れるという傾向があります。2016年版で突如「出現」した「大規模かつ強制された人の移動」は、その後のイスラミックステーツ(IS)の急速な退潮により、2017年版の蓋然性3位、影響度6位から、2018年版では蓋然性6位、影響度9位と、トップ5圏外に去りました。トップ5圏内では、「気候変動の抑制・適応の失敗」がいずれも順位を上げましたが、米国トランプ大統領のパリ協定離脱宣言が影響していると考えられます。

 注意すべきことは、この気候変動リスクが端的に表しているように、2017年版から2018年版で大きな変化が見られなかったことは、世界のリスク要因の最も深刻なものに解決の兆しが見えず、深刻なままであり続け、恐らくはさらに深刻さを増すことを意味している、ということです。「敵」の姿は見えているものの、解決の方途は一向に見えてきていない、といえるのではないでしょうか。

○世界10大リスク2018年版

 これも私の「定点観測」の対象として以前ご紹介した、ユーラシア・グループ「2018世界10大リスク」(注3)も見ておきましょう。2017年版では、最重要のリスク要因として「わが道を行くアメリカ」、すなわち米国トランプ政権の誕生により、保護主義の台頭や国際秩序の弱体化をもたらす結果、2017年の世界は「地政学的後退(recession)期」に入り、「国際的な安全保障及び経済取引それぞれの枠組みの弱体化及び世界最強の国々の政府間の不信の高まりを招く」という描像を提示しました。

 これに対して、最新の2018年版で最重要のリスク要因に挙げられたものが「真空状態を愛する中国(China Loves a Vacuum)」です。アメリカが世界秩序の番人としての地位を投げ出した結果、その役割の担い手が不在となる真空状態を生み、その空隙を中国が最大限に利用して世界における地歩を拡大していく、というものです。

 第2位は、国家その他の間の「偶発的な衝突(Accidents)」、第3位は「世界規模の技術冷戦(Global Tech Cold War)」です。さらに第6位「制度・機構の瓦解(The Erosion of Institutions)」、第7位「保護主義2.0(Protectionism 2.0)」も鳥瞰すると、2018年版の最大のメッセージである「世界は米国主導の秩序を失い、地政学的衰弱状態(depression)に陥る」は、何とも不気味なものに見えてきます。

 2018年は、2月の韓国・平昌オリンピック、11月の米国議会中間選挙など、これらリスクの趨勢を占う重要なイベントが予定されています。それらを注視しつつ、少しでもより良い方向に進む方策を編み出すよう、私どもも微力を尽くしたいと思っています。

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  • 研究者プロフィール

    2017年4月1日現在

  • 電力経済研究

    2017年3月17日更新

  • 社経研コラム class=

    2018年2月7日更新

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