社会経済研究所

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グローバルアイ
「トランプ氏のエネ政策とは」

上野 貴弘

 米大統領選挙は、民主党クリントン氏と共和党トランプ氏の本選になる見通しとなってきた。クリントン氏はこれまでの発言や政策提案などから、オバマ大統領のエネルギー環境政策を継承し強化する方針とみられている。

 他方、トランプ氏は「人為的な気候変動を強くは信じない」と発言するなど、気候変動対策に後ろ向きであることは明白だったが、エネルギー環境政策の具体的方針は示していなかった。そのような中、5月26日に演説し、エネルギー環境政策について初めて具体的に語った。

 演説はオバマ政権の政策批判から始まる。「石炭産業を殺そうとしている。議会を回避して、雇用を破壊するキャップ&トレードを導入しようとしている」「石油・天然ガスの生産を阻害している。連邦公有地での石油天然ガス生産は1割減った」「議会承認なしでパリ協定に入った。この協定は、外国の官僚に米国のエネルギー利用をコントロールさせるものだ」とまくし立て、「エネルギーという富へのアクセスを否定して、海外のエネルギー源に依存的になることで安全保障も損なった」と断じた。

 続いて、クリントン氏について「石炭と他の化石燃料からの撤退を宣言し、(シェール資源の開発を可能にした)水圧破砕に否定的である」 と述べ、「クリントンはオバマよりも悪い」と批判した。

 そして、トランプ政権になれば「アメリカ第一エネルギー計画」を作るとした。その内容は「OPECや敵対的な国々からの完全なエネルギー自立を実現する」「エネルギー生産からの収入を、道路、学校、橋梁などのインフラ建設に充当する」「イノベーションから官僚主義を除外し、全エネルギー源を追求する」というものである。環境政策については「偽りの問題ではなく、真の環境問題を解決する。優先すべきはクリーンな空気と飲料水」と語った。

 その上で、最初の100日の計画として、「気候変動行動計画などオバマ政権が行政権限で行った全施策を撤回する」「トランスカナダ社にキーストーンパイプラインの認可を再申請するように求める」「連邦公有地におけるエネルギー生産のモラトリアムを解除する」「新規掘削技術への不当な制限を取り消す」「パリ協定をキャンセルし、国連の温暖化プログラムへの全拠出を止める」「労働者に悪く、国益に反する時代遅れで不要な規制を排す」といった内容を示した。そして、「私の計画は、クリントンと異なり、真の雇用と所得増加を生み出す」と宣言した。

 演説で示した方針は、要約すれば、国産の化石燃料を優先させ、オバマ政権が進めた温暖化対策を撤廃することであり、共和党のエスタブリッシュメント(主流派)の考え方に合致している。演説はシェール革命の恩恵を受けるノースダコタ州で行われた。5月頃より、同州選出のクレーマー下院議員がトランプ氏のエネルギー分野のアドバイザーになったと報じられ、演説に先立ち、4ページの提言書を示したという。こうした舞台設定が演説内容に反映されたものと思われる。

 他方、パリ協定については演説の1週間前に掲載されたインタビューで「最低でも再交渉。最大では別の何かを行う」と述べた。協定脱退をほのめかしつつも、内容変更次第では残るとも取れるニュアンスである。演説での「キャンセル」発言とは多少異なる。

 トランプ氏は今回の演説で方針を鮮明にしたが、意見を変えることも多い。ノースダコタ州以外の場所では別の発言をするかもしれず、有権者の反応を見つつ、意見の微修正を重ねる可能性も残る。

電気新聞 2016年6月8日掲載

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