電気新聞ゼミナール

2017.07.31

英国における自由化後の供給力確保の経験から学べることは何か?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(136)

【英国の自由化の経験を学ぶ意義】

 今回から数回にわたり、電気事業の分割民営化から四半世紀以上が経過した英国の経験からわが国が学べることを連載で解き明かす。
 英国は、電力の自由化で先行し、市場原理の導入や独立規制機関の設置など、わが国でも始まった様々な制度設計に長年取り組み、一定の成果とともに多くの課題を示してきた。他国との連系線が限られ、原子力を重要な電源と位置付けるなどの共通点を持つわが国にとって、英国の経験に学ぶことは、電力システム改革を進める上で有益である。第1回は、市場原理やエネルギー政策の影響と向き合う中で供給力の確保に取り組んできた経験を振り返る。

【プール市場での試みとその結果】

 英国は、1990年の自由化当初、発電する電力の全量を前日市場に入札させる強制プール市場を導入していた。競争が働くことで短期限界費用に基づく効率的な価格形成が期待されたが、容量への対価として、需給のひっ迫度合いに応じた価格の上乗せも認められていた。競争下で安定供給に必要な設備投資を促すには、理論上、需給ひっ迫時に限界費用を上回る価格設定が必要なことを反映した仕組みである。現在、多くの国が導入する容量メカニズムの先駆けでもあった。
 しかし、この容量への対価は、当時の二大発電事業者が供給力の「出し惜しみ」で、需給ひっ迫の状態を作り出し、価格を釣り上げた要因にもなったと疑われ、十年後のプール市場廃止の一因にもなった。こうした市場シェアの大きい事業者による「市場支配力」の行使で価格が限界費用を上回るのは、社会的には非効率である。しかし、現実には需給ひっ迫が競争的な状況で生じたのか、市場支配力の行使によって生じたのかを判別するのは難しいという問題に直面したのである。

【再生可能エネの導入に伴い容量市場の創設へ】

 プール市場の廃止に伴い、2001年に相対取引中心の卸電力取引の枠組みが導入されると、制度的に容量の価値を認識する仕組みはなくなった。
 しかし、2000年代終盤から、脱炭素化を中心とするエネルギー政策の目標達成の一環として、再生可能エネの導入を進めると、kWhの価値で取引される卸電力の価格が低下し、安定供給のために必要性が高まるガス火力の投資が十分に進まないことが懸念された。そうした懸念を払拭するために2014年に設立されたのが容量市場である。

【容量市場は期待通りに機能するか】

 英国の容量市場では、政府の定める信頼度基準を満たすのに必要な四年先の容量をオークションによって一元的に確保する。容量に価値を認める一方で、小売事業者には顧客の需要に応じた容量の購入を義務付ける。
 容量市場でも競争が最大限に働くよう、新設・既設や電源種別による区別なく同じ価格を受け取ることになっている。制度導入後の3年間に計4回のオークションが開催されているが、これまでの落札価格はいずれも新規電源(CCGT)の固定費を回収できる水準には程遠い(図)。容量市場を創設予定のわが国としても気になる結果である。
 英国の容量市場の設計に改善の余地があることを示すのか、それとも、市場は適切に設計され、単に競争が働いた結果なのか、それを見極めるには様々な要因を精査する必要がある。ただ、容量市場の創設によって確実に供給力を確保できるとの楽観的な見方は慎むべきであろう。

電気新聞2017年7月31日掲載
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