2012年12月以降、国内景気は拡大が続いている。この局面が19年1月まで持続すれば、戦後最長の74ヵ月となる。この長命景気がいつまで続くのか、また、16年度に増加に転じた販売電力量は今後も増勢を維持するのか。当所マクロ経済モデルによる19年度までの日本経済と電力需要の予測により占った。
【経済成長は17年度に加速、その後は減速へ】
世界貿易の緩やかな拡大と現在の金融緩和政策の維持を前提とすれば、17年度の実質GDPは、16年度実績の前年度比1.3%増のあと、同1.7%増と成長が加速する。しかし、18、19年度はそれぞれ同1.0%増、0.1%増と鈍化する(図1)。17年度から18年度前半にかけては、企業収益と家計所得の改善を背景とした民間需要の増加や、東京オリンピック関連などの公的需要の増加により、内需主導の成長が実現する。しかし、18年度後半から19年度にかけては、世界経済の成長鈍化による外需の減少や、19年10月に予定されている消費税率引き上げが成長の抑制要因となる。
【18年半ばに景気後退局面に転じる前兆も】
景気局面を判断する指標の一つとして出荷・在庫バランス(出荷前年比マイナス在庫前年比)がある。この指標では、バランスがプラスの場合には景気拡張局面、マイナスの場合には後退局面と判断する。今回予測した鉱工業の出荷・在庫バランスをみると、直近の17年4~6月期は+8.1ポイントと3四半期連続してプラスで推移している。17年度はプラスで推移するものの、内外需の伸び鈍化が鮮明になる、18年7~9月期にはマイナスに転じる見込みである。出荷・在庫バランスの観点からは、18年半ばに景気が後退局面に入る可能性が示唆される。
【力強さに欠ける販売電力量の伸び】
経済見通しと16年度並みの気温を前提とした17年度の販売電力量は、16年度実績の前年度比1.5%増の後、同1.3%増と2年連続で増加する。電気料金の相対的な上昇がマイナス要因となるが、経済成長の加速が増加要因として作用する。18、19年度は、経済成長の鈍化を背景に同0%台に伸びが低下する(図2)。
なお、気温変動による振れ幅を試算すると、17年度の販売電力量は、今冬が厳冬(11年度冬季の気温を想定)になる場合には同1.9%増に上振れ、暖冬(06年度冬季を想定)になる場合には同0.6%増まで下振れする。
【米中景気の動向によってはマイナス成長も】
以上の標準予測では、世界貿易の緩やかな拡大と為替レートの安定した推移を前提としているが、主要エコノミストの間では、先行きの景気下方リスクとして米国や中国の景気減速を挙げる見解が多い。米中の金融引き締めの動きが行き過ぎ、世界経済の成長が急減速するような場合には、貿易取引の大幅な縮小や、円高の急速な進行が生じる可能性がある。
予測期間にリーマン・ショック並みの世界貿易の縮小(18年度に標準予測比4.5%減、19年度に同9%減)と円高(両年度ともに標準予測比10円円高)が生じたと想定した場合、19年の上期には実質GDPや販売電力量はマイナスになる可能性もあり(図1,2)、直近でこれを押し返すないし緩和する材料も乏しい。電力需要の趨勢を左右する重要な局面が続く。
電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員
林田 元就/はやしだ もとなり
2001年入所、専門は、日本経済・電力需要の実証分析、応用計量経済学。
電気新聞2017年10月30日掲載
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