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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (145)

米国の省エネ・節電サービスに関連する
スタートアップ企業で着目すべき点は?

 我が国では、小売部門の全面自由化に伴い新サービス開発競争が加速しており、電力・ガス各社は海外企業との連携を一層強化している。米国では、2000年代から省エネやデマンドレスポンス(DR)、太陽光、蓄電池など環境負荷低減に寄与する新興技術(クリーンテック)への投資が増えている。本稿では、クリーンテック投資動向を概観するとともに、省エネ・DR関連のスタートアップ企業に焦点を絞ってその傾向や着目すべき点を考察する。

【クリーンテック投資の急増】

 クリーンテック投資は、2000年代以降、ベンチャーキャピタル(VC)を中心に拡大した。米ブルッキングス研究所によると、年投資額は2005年に10億ドル、2008年には60億ドルに達している。特に、シリコンバレーで活発で、2011〜6年の米国でのクリーンテックVC総投資額の4割弱を占めた
 VC投資は回収までの期間が短く、太陽電池など製品化に年数を要する分野で投資回収できない案件が相次いだ。他方で、サーモスタットのネスト社などソフトウエアに特化した省エネやDRの案件から成功事例が現れ始め、それと並行して欧米の電力・ガス会社によるクリーンテック投資も増加する。米GTMリサーチによると、欧米の電力・ガス会社による省エネ、DR、太陽光、蓄電池関連の投資・買収額は2016年に10億ドルを超え、2010年の3倍近い水準となった。分野別では、省エネ、DR等エネルギー管理分野の比重が高く、総投資件数の33%を占めている。

【顧客にとってのわかりやすさが鍵】

 米国における家庭向けの省エネ・DR関連のスタートアップ企業の代表例である、2007年創業のオーパワー(2016年にオラクルが買収)は、家庭用エネルギーレポートにより他世帯との使用量比較等の情報提供を行う。電力会社には顧客との接点を増やせるというメリットが期待される。また2010年創業のビジェリは、使用用途別の見える化に加え、省エネ余地を発見すると「節約の機会を見つけました」という趣旨のメッセージをプッシュ配信し、簡単な操作で省エネ家電購入ウェブサイトへと誘導する。2013年創業のオームコネクトは、ピーク需要のタイミングで「CO2排出量の多いピーク時電源が稼働します」という趣旨の節電要請をプッシュ配信する。節電応答を繰り返すと、年100〜300ドル程度の報酬が付与される。
 業務部門向けでは、クラウドやデータを武器にエネルギー管理を高度化する事例が目立つ。2009年創業のエンライテッドは、センサネットワークでオフィス在室傾向を空間的分布として監視し、照明・空調需要の見える化と自動制御を行う。2010年創業のファストフュエルは、使用量データや顧客情報により簡易的省エネ診断を遠隔で行う。2013年創業のコンフィは、オフィス従業員向け空調リモコンアプリを提供、操作ログを空調制御に活用する。

【ナッジ的手法への着目を】

 これらの事例でまず指摘したいのは、特に家庭向けサービスにおいて「ナッジ」の概念に当てはまる例が目立つ点である。ナッジとは、デフォルトのものを選びやすい、周囲と同じ行動をとりたがる等、ヒトの非合理的な行動に関する科学的知見を援用し、直感的な気づきから行動変容を促すことで社会的価値を生み出そうとする仕掛けを指し、金融・健康分野等でも活用される。ナッジ的手法では、省エネ・節電の実施判断は顧客に委ねられ、顧客の意思に反した介入をしないため抵抗感が少ない。
 また、効果の検証方法の違いも指摘したい。スタートアップ企業には、自社製品の省エネ、DR効果の検証方法について非公開のケースもある中、創業後10年未満で買収されたオーパワーやネストは、情報提供する顧客としない顧客をランダムに割当てて使用量や満足度を比較することで、気象など外的要因の入り込む余地のない検証を行い、そのプロセスの公表も行っている。この点が、専門家や業界実務者への訴求力向上要因となり、シェア拡大の一つの要因として寄与した可能性がある。
 これらの点は、今後省エネ、DR関連のスタートアップ企業を評価する際の基準の一つとして、さらには、自社サービスに対する顧客の訴求力を高める上での参考事例として、注目に値する。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
向井 登志広/むかい としひろ
2013年度入所。工学博士。専門は省エネ・節電、行動変容、効果検証。

電気新聞2017年12月13日掲載

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