電気新聞ゼミナール

2017.12.27

近年の株主提案を巡る動向から学べることは何か?

  • 企業・消費者行動

電気新聞ゼミナール(146)

外﨑 静香  

 株主提案とは、一定の要件を満たす株主が、株主総会に議題・議案を提出し、議決を求める制度である。会社と株主との対話を促進させることを通じて会社の持続的成長を図ることを目的としており、日本では1982年の商法(会社法)改正で導入された。
 わが国では、株主総会における株主提案が毎年増加傾向にある。電力会社では、2012年の株主総会以降、その増加が顕著である。近年の株主提案の動向から、今後の動きと留意点について検討する。

【株主提案の一般的傾向】

 わが国の上場会社における株主提案の議案は、2016年以降、定款変更が最も多く、役員の選解任、剰余金の処分、増配要求がそれに続く。定款変更という形式を使えば、法令や定款に違反しないといった一定の除外理由に該当しない限り提案できることが、その背景にある。定款変更の具体的な提案事例には、役員報酬の個別開示や、剰余金の配当等の決定機関の変更、相談役・顧問等の役職の廃止などがある。

【電力会社に対する株主提案の傾向】

 これまで電力会社に対する株主提案は、原子力発電に関する定款変更が多かったが、最近ではそれ以外の提案も見られる。2017年の株主総会では、環境に配慮した電源の推進や、相談役・顧問・参与等の役職の廃止、役員の構成(人数や社外取締役の導入)などが提案された。

【株主提案にかかる意識の変化】

 2013年に閣議決定された「日本再興戦略」を受け、2014年に金融庁によって「スチュワードシップ・コード」(以下、SSC)が策定された。SSCは法律ではないため強制力を持たないが、この受入れを表明した機関投資家は、企業価値向上や会社の持続的成長を促すため、投資先企業との対話(エンゲージメント)を通じ、投資先企業の問題を改善し、受益者の投資リターン拡大を図ることが求められる。これを受け、機関投資家の株主総会への関心はより強くなっている。
 SSCは2017年に改訂され、機関投資家は、議決権行使の方針や賛否の投票状況についての公表が求められるようになった。既に一部の機関投資家は、個別の議案に対する賛否を明らかにしている。2017年の黒田電気の株主総会では、投資会社のレノが提案した社外取締役選任の議案が可決されたが、SSCの改訂もその一因と考えられる。今後は株主提案が、機関投資家らの支持を得て可決される事案が増加することも想定される。

【対話の場としての株主総会と株主提案の今後】

 近年の株主総会は、会社側提案の利益処分案や役員選任案の決議に留まらず、会社と株主との「対話の場」に変わりつつある。SSCの2017年改訂では、ESG(環境・社会・ガバナンス)という新たな投資判断要素が加わった。これまで機関投資家は、主に財務情報を見て投資判断を行っていたが、今後はこれらの非財務情報にも配慮した投資判断が求められるようになった。一般的には、ガバナンス(G)に対する関心が高いが、エネルギー産業においては、環境(E)に対する関心も高い。事実、電力会社に対する2017年の株主提案には、再生可能エネの推進を掲げるものも多く見られた。また、社会(S)の要素としては、労働環境の改善や雇用の多様性、地域社会への貢献などが挙げられており、今後、関連する株主提案が増加することが考えられる。
 また、上場会社は、2015年に東京証券取引所と金融庁によって策定された「コーポレートガバナンス・コード」の適用を受ける。このコードもSSCと同様に強制力を持たないが、企業価値向上や会社の持続的成長を促すため、上場会社に対して株主との適切な対話を求めている。

【建設的な対話に向けた株主提案の活用を】

 このような対話の実践は、会社のガバナンスや経営に対する株主の理解を深める一助となる。また、会社側にとっても、経営方針やガバナンスでの自らの課題を認識した適切な対応につなげることができる。
 現在、法制審議会では会社法見直しの議論が進められている。その中で、不適切な内容の提案や、一株主による膨大な数の提案といった、濫用的な株主提案の規制が検討されている。この動きを通じ、会社の持続的成長の実現を図るための対話の一手段であるという株主提案本来の目的に沿った形で、これが会社および株主双方に活用されることを期待したい。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
外﨑 静香/とのさき しずか
2015年入所。専門は金融商品取引法、会社法。

電気新聞2017年12月27日掲載
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