電気新聞ゼミナール
2018.06.27
電力系統の近代化に取り組むニューヨーク州での配電事業者の役割とビジネスモデルとは?
- 電気事業制度
- 企業・消費者行動
電気新聞ゼミナール(158)
大野 智晴
近年、米国ニューヨーク州(NY)では、RPS目標50%を達成するための再生可能エネの受け入れ拡大、系統の事故時回復力や供給信頼度の向上、老朽設備の更新費用抑制等を目的に、 電力系統の近代化をめざすプロジェクト・REV(Reforming the Energy Vision)に取組み、 様々な制度設計検討や実証事業を行っている。
REVの柱の一つとして、分散型エネルギー資源(DER)の普及と柔軟な活用に向けたシステム構築・運営があげられている。その中で配電事業者は分散型サービスプラットフォーム(DSP)の提供者としての役割を担うこととしている。
【DSPに求められる3つの役割】
NYの規制当局は、DSP提供者に求める役割として、主に次の3つを推奨している。
第一に、DER普及を踏まえた系統設備計画の最適化である。点在するDERをより効率的に配電系統に統合していくためには、ホスティングキャパシティ(追加費用無しで電力系統に統合できるDERの上限量)や、配電レベルでのDERの地点別正味価値(LMP)を時間別に特定する必要があり、その手法の開発が不可欠である。
第二に、リアルタイムできめ細かい潮流監視・制御による系統運用の高度化である。これには、DERの指令制御手法の確立や、センサー類の面的配備が必要となる。
第三に、DER市場の運営である。市場では、電圧制御等の配電系統のグリッドサービスの他、省エネコンサルやDER資材等の商品を取扱う。DSP提供者は、これらのサービス・商品を需要家やプロバイダ等が円滑に取引できるようデータ共有プラットフォームを提供する。
【DSPの設計スケジュール】
DSPによる市場運営等には、技術や市場の成熟に時間を要するため、10年ほどかけて慎重に制度設計を行う。現在は、準備期間として計画策定や実証試験を行っている段階にある。将来的にはLMPを反映したグリッドサービスをDER市場から調達して系統運用を行ったり、系統設備計画を送電計画と融合したりすることを目指している。
【DSPで模索する新しいビジネスモデル】
配電事業者は、実証試験等を通じてDSPに必要な機能・能力を把握するとともに、新たな収入源の機会も模索している。例えば、系統用の蓄電池を他事業者にシェアする等、従来の配電事業を基軸としたビジネスモデルが検討されている。一方で新しく担うこととなったDER市場の運営を通じて、市場の取引手数料の徴収や調達したDERを上位系統市場へ再入札する等、従来の事業とは異なる視点からもビジネスモデルが検討されている点が興味深い(図)。
【配電ビジネスモデルの新地平となるか】
NYの取組は実証段階であるため、DSPが機能して将来に大きな収益源となりうるかは不確実な部分が大きい。しかし、再生可能エネ等自家発電の普及による託送収入の減少や、DERを系統取引するニーズの高まりといった課題は、我が国も含め世界中のネットワーク事業者の共通課題であり、従来のビジネスモデルを補う新しいビジネスモデルの参考事例として注目に値するであろう。
電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
大野 智晴/おおの ともはる
専門はエネルギーデジタルトランスフォーメーション(EDX)
電気新聞2018年6月27日掲載
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