米国で、電力の自由化を進めた地域の原子力発電所が、市場で十分な収益を上げられず、早期閉鎖に追い込まれる例がある。最近では、同じく収支が厳しい石炭火力と合わせてトランプ政権が救済策を講じるとの報道もある。問題の背景にある近年の収支の状況や、これまでに打ち出された対応策を振り返る。
【収入の柱となる卸電力市場の価格が低迷】
自由化された地域の原子力発電所の収入は、卸電力市場と容量市場の価格で決まる。ただし、ベースロード電源として運用されるため、収入の大半は卸電力の販売収入となる。その卸電力の価格は、近年、シェールガス革命の影響を受け、低迷を続けており、地域差はあるが、MWhあたり30ドル前後まで下がっている。容量市場で落札すれば、設備の容量に応じた収入も得られるが、MWhあたりの収入に換算すると近年は4~8ドル程度である。米国の原子力エネルギー協会によれば、既設の原子力発電所の発電にかかる費用は、全米平均でMWhあたり30ドル台半ばである。市場からの収入は立地点によって異なり、費用も発電所毎に異なるが、収支が厳しい発電所があることは十分に推察される。
【非化石価値に基づく一部の州の政策支援】
実際、いくつかの原子力発電所が、経済的に維持することが困難として、何らかの政策的支援がなければ早期閉鎖することを表明していた。こうした発電所が立地する一部の州は、大型の低炭素電源を失うことによる経済的影響を重く見て、当該発電所にゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)を付与する支援策を導入した。ZECの価値は、連邦政府が推定する炭素の社会的費用に基づいて定められており、例えば、ニューヨーク州は最初の二年間はMWhあたり約17.5ドル、イリノイ州では16.5ドルに設定されている。卸電力市場や容量市場の価格が導入時よりも上昇した場合は、その分減額されるが、一定の追加収入が得られる。その結果、例えば、イリノイ州では、卸電力市場と容量市場で得られる収入と合わせて、MWhあたりの合計収入は約48ドルとなる(図)。これで早期閉鎖のリスクがあった発電所も存続可能となったのである。
ただし、ZECの導入に際しては、市場の競争を歪めるなどの理由で厳しい批判が寄せられてきた。結果的にまだ一部の州でしか導入されていない。
【レジリエンスに基づく支援の試み】
他方、エネルギー省(DOE)は、2017年に、原子力発電など、燃料供給が確保された電源が、系統のレジリエンスに貢献することを根拠に費用の回収を認める規則の策定を提案した。しかし、競争的な市場において、燃料供給を確保した電源だけに費用の回収を認める必要性は理解を得られず、実現には至らなかった。その後、トランプ政権が緊急避難的な救済策を検討中と報じられたが、現時点での実現の見通しは不透明である。
レジリエンスに関する検討は米国内で続けられており、容量市場の中で燃料供給の安定性を評価する仕組みを検討するところもある。しかし、レジリエンスの強化には、送配電網の増強を含めた対策が重要との見方もあり、それにより原子力発電の早期閉鎖が回避できるとは限らない点に留意が必要である。
電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 副研究参事
服部 徹/はっとり とおる
1996年入所。博士(経営学)。専門は公益事業論。
電気新聞2018年7月25日掲載
*電気新聞の記事・写真・図表類の無断転載は禁止されています。