電気新聞ゼミナール

2018.09.19

諸外国の再生可能エネ早期接続措置における出力制御時の金銭補償の特徴は何か?

  • 電気事業制度
  • 再生可能エネルギー

電気新聞ゼミナール(164)

朝野 賢司   星野 光  

 本稿では、前回(9月5日)に引き続き、日本と諸外国における再生可能エネの接続条件緩和措置の出力制御に伴う金銭補償の特徴を整理する(表)。
 日本版ノンファーム型接続では、熱容量等の送電制約を解消する際に、ノンファームに区分される電源を無制限無補償で出力制御する方式がまず導入される。その後、ファーム電源である従来電源と既設再生可能エネも含めて出力制御を行い、ノンファーム電源からファーム電源に費用を精算する方式に移行することが今年4月に示された。しかし、具体的な方法は今後の課題とされている。

【ファーム分に補償するアイルランド】

 アイルランドでは、全量プール市場を通じた出力制御を行う。
①市場運営者は、送電制約を考慮せずに、メリットオーダーによりシステム価格を決定する。系統運用者はこれを考慮した需給計画策定と出力制御を行う。
②優先給電ルールがあるため、まず従来電源の入札価格が高い順に出力制御を行う。次に、泥炭電源、コジェネ・バイオマス・水力の順に、比例配分で行われる。最後に制御される風力発電はノンファームから制御する。
③出力制御に伴う補償は、ファーム/ノンファームの区分が補償に直結している。各電源の出力可能な最大電力MECとファーム接続容量FAQが定められ、FAQは系統増強工事進展で増加し、工事完了でMECと等しくなる。MECを下回りFAQを上回る部分をノンファームとする。
 同国では、出力制御の原因を、熱容量等局所的な送電制約と、それ以外のシステム全体の運用制約に分ける。ノンファームは如何なる理由の出力制御でも無補償である一方、FAQはこれまでどちらの理由でも補償してきたが、後者の補償は今年終了予定である。
 従来電源への補償では、①のプロセスで約定された再生可能エネが出力制御された分は、従来電源がその供給を担うが、この費用については、市場への入札情報に基づき燃料費相当分が補償される。また、①のプロセスで約定されたにも関わらず②のプロセスで制御された従来電源は、不要となった燃料費相当分のみを返納し、出力制御がなかった場合と同等の利益を得る。

【市場精算の英国】

 英国は、事前に定められた電源別の契約電力を超えない範囲での接続しか認めない、つまり、ノンファームの概念がない中で、優先給電ルールのない市場による出力制御に特徴がある。具体的には、コネクト&マネージ(C&M)電源や従来電源の区別なく、バランシングメカニズム等の中で、各電源は出力制御時の発電機会損失の単価を入札し、混雑解消に応じた電源に補償が支払われる。

【全額補償のドイツ】

 ドイツの再給電による出力制御では、基本的に機会損失のほぼ全額を補償する。再生可能エネはFIT買取単価等を機会損失として、その95%が補償される。従来電源は、市場での約定単価から燃料費を差し引いた額等が補償される。つまり、発電の機会損失をほぼ全て補償し、託送料金増大にツケを回しながら、優先給電を残し、再生可能エネを拡大させる妥協策だ。
 今後、日本では、従来電源への補償のあり方を慎重に検討しつつ、ノンファーム電源が卸や需給調整市場等に悪影響を与えない検討が必要となる。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 上席研究員
朝野 賢司/あさの けんじ
2007年入所。専門は環境経済学、再生可能エネルギー政策。博士(地球環境学)

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
星野 光/ほしの ひかる 
2017年入所。専門は電力エネルギーシステム、制御応用。博士(工学)

電気新聞2018年9月19日掲載
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