電気新聞ゼミナール

2018.11.14

海外の容量市場の価格とその影響から何を読み取るべきか?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(168)

 わが国では、容量市場の詳細設計が進みつつあるが、実際に容量市場で決まる価格とその影響について考えておくことは、市場メカニズムを活用してエネルギー政策の目標を達成しようとするわが国にとって重要である。以下、先行する英国の事例を中心に、その経験を振り返る。

【指標価格を下回る約定価格とその影響】

 英国では、4年先の供給力を確保するメインオークションが既に4回行われているが、その約定価格は、新規電源の固定費回収に必要な費用であるNetCONEを大きく下回っている。直近のオークションではNetCONEの2割にも満たない過去最低の価格となった。基本的には、4年先に提供可能な容量が需要を上回るために生じたことで、国全体で必要とされる供給力を安価に確保できたという意味で、容量市場はその役割を果たしていると言える。約定価格がNetCONEを下回る状況は、より長い歴史を有する米国PJMの容量市場でも継続的に観察されている。
 しかし、価格がNetCONEより安いことで、結果的に新規電源には厳しい結果となっている。既設電源の落札率と比較すると、応札した新規電源の落札率は明らかに低い(図)。また、大型の新規電源はこれまで数件しか落札しておらず、新規電源で落札した電源の多くは規模の小さい電源である。米国では、天然ガスの価格が安いこともあり、新規のCCGTの落札も見られるが、やはり大型の新規電源には厳しい状況である。

【多様な供給力の参入で供給力を確保】

 英国で落札した新規電源の多くは、配電網に接続する分散型電源である。英国では、100MW以下の分散型電源が、送配電料金の制度において優遇され、送電系統に接続された電源よりも競争力が高かったことがその一因であるが、容量市場が重要な収入源になっていたことも無視できない。デマンドレスポンスや貯蔵といった従来の電源以外の新たな供給力も一定程度落札しており、容量市場の創設で参入が促されたとみられる多様な供給力が、全体の供給力の確保に貢献している。

【容量価格の決定要因は複雑】

 容量市場の価格は、市場である以上、需要と供給のバランスで決まり、供給力が余剰の状態にあれば当然安くなる。ただ、需要の方は、人為的に設定される需要曲線によって決まるため、そのパラメータに依存すると言える。また供給の方は、落札した場合に供給力として満たすべき要件(リクワイアメント)にも依存し、それが厳しいほど、オークションの参加者が減り、価格は高くなる。さらに、容量市場以外の制度や政策によっても左右される。様々な要因が複雑に絡み合うため、将来の価格を予測するのは困難である。

【容量市場で低価格が続く可能性も】

 長期的には、容量市場の価格は適切に設定されたNetCONEの水準に近づくとも考えられる。しかし、不確実性の下では、既存電源は採算が取れなくても廃止の意思決定が遅れがちになると考えられ、構造的に供給余剰が続いて低価格が続く可能性も否定できない。容量市場で全てが決まるわけではないが、新規の大型電源を前提とするエネルギーミックスの達成にはリスクとなる。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 副研究参事
服部 徹/はっとり とおる
1996年入所。博士(経営学)。専門は公益事業論。

電気新聞2018年11月14日掲載
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