電気新聞ゼミナール

2019.01.09

電力供給支障時の情報発信・コミュニケーションで留意すべきことは何か?

  • 電気事業制度
  • 経済・社会

電気新聞ゼミナール(172)

長野 浩司  

 2018年は、相次ぐ自然災害と、それに起因する電力供給支障等により、強く記憶される年となった。新年が本紙読者諸氏にとって、安定した明るい年となるよう祈念する。

【北海道電力検証委員会への参画】

 そうした中、9月6日の北海道胆振東部地震に端を発する全道ブラックアウトへの対応についての、北海道電力の検証委員会で社外委員を務め、最終報告書の取りまとめに参画させて戴いた。具体的な内容は報告書を参照戴くこととし、ここでは一般的な文脈で、事故や災害等で電力供給に支障が生じた状況での一般の方々への情報発信やコミュニケーションにおいて留意すべきことを概説する。

【地域の人々の情報ニーズの把握】

 過去の災害・事故時の調査等から、被災下の人々の情報ニーズは時々刻々変化するが、発生直後は「いま何が起きているのか」「どのような行動をとれば良いのか」という2点に対する要望が強いことがわかっている。これは、異なる時代や状況下でもかなり普遍的なことと考えられる。
 ある程度時間が経過し、状況が静定に向かった段階では、加えて「何が原因だったのか」「支障がいつまで続くか(いつ解消するか)」、さらに「どのような対応や再発防止策を講じるか」が提示されるべきである。
 さらに、地方や地域毎の特性に根ざした固有の情報ニーズについても予め把握しておくことが、支障時の適切な対応の準備として重要である。この点については、発信する内容だけでなく、個々の受け手の情報環境(とくにインターネット環境の有無)にも留意すべきである。

【非常時は正確性よりもリアルタイム性】

 危機的状況下では、情報の受け手だけでなく、発信側も厳しい制約下に置かれている可能性がある。しかし、既に述べた受け手側のニーズに配慮すれば、「何が起きているのか」、「どうすれば良いか」についての最低限の情報を、できる限り速やかに発信することが原則となる。正確さをある程度犠牲にすることになるが、より正確な情報把握ができた段階で修正情報を発信して補正すればよい。
 いま一つ重要なことは、情報の発信源が特定できていることである。予め定めたプロトコルに従い、第一発信源が第一報を出し、後続の発信源がこれを速やかに追認していくことが重要であり、これに失敗すれば直ちに多大の混乱を招く。

【事業継続計画の継続的見直し】

 電気事業者に限ることなく、災害等を想定した事業継続計画(BCP)を策定し、繰り返し見直すと同時に、ステークホルダーに明示していくべきである。東日本大震災を経験した日本では、「想定外」という言葉を安易に用いることは許容されなくなった。地域の特性に照らし、考えるべき最大級の被害シナリオを前提とした計画策定が求められる。
 米国では、「災害復旧テスト」という試みが提唱され、既にGoogleなどの大企業が実践に取り組んでいる。事業の継続や社の存続を脅かす考え得る限りのシナリオを設定した上で、帰結として起こることを想定し、その発生や進展を防ぐ対策を編み出し講じていく試みである。最悪を想定し、なお事業の継続を志向する姿勢を示すことで、事業経営に対する信頼を醸成する効果も期待できる。

【科学的情報の発信と共有】

 災害時には多くの風評が飛び交うが、その中には科学的に不確かな、あるいは全くの誤りであるものが含まれる。とくに原子力関連で多いことは周知の事実である。個々の風評の真贋を鑑定し、評価を発信する、さらには市民からの質問に答える機能を、日本社会として実装できないだろうか。同種の機能として、米国では、連邦政府が人種問題等に関する流言対処機関を設置しているほか、ボルチモア市などの自治体も常設の電話応答サービス等を運営している。また英国では、有志の学者が集い、科学に関する誤った風説に対して正しい情報を提供する実践を行っている。そのような事後の風説マネジメントの実効を担保するために、平常時におけるリスク情報の発信と共有が重要な基盤を形成する。
 これらは優れて学術界の社会的責任であり、研究機関に属する私どもとして真剣に考えていきたい。

電力中央研究所 社会経済研究所長 研究参事
長野 浩司/ながの こうじ
1987年度入所、社会経済研究所長・研究参事、専門はエネルギー政策・エネルギーシステム分析、博士(工学)

電気新聞2019年1月9日掲載
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