電気新聞ゼミナール

2019.02.20

欧米の電気事業者の研究開発の変遷から学ぶべきことは何か?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(175)

 電気事業では、脱炭素化や再生可能エネの大量導入等へ向けて、イノベーションが求められている。デジタル技術や電力貯蔵といった新たな技術が、電気事業のビジネスモデルを根底から変革する可能性もある。イノベーションの創出は、事業者の長期的な競争力の強化、ひいては電気事業の発展に寄与すると期待される。

【電気事業制度改革後の研究開発の縮小】

 しかし、イノベーションの創出に重要な役割を果たすと考えられるわが国の電気事業の研究開発投資は、1990年代からの制度改革を経て大幅に縮小してきた(図)。2011年の東日本大震災と福島原子力事故の後には、さらに落ち込んだ。直近では一部事業者で底を打ったように見られるものの、研究開発の強化が欠かせない。
 電気事業の民営化・自由化後に研究開発投資が縮小する現象は、日本に限らず、欧米でも共通して見られる。改革により効率化や収益確保が一層重要となる中、長期的な研究開発、特に温暖化対策といった公的側面が強い研究開発の縮小が進んだとの指摘もある。

【イノベーション強化の新局面】

 しかし、最近になって欧米で研究開発の縮小から、イノベーションの強化に転じる動きが見られる。欧州の主要な電気事業者の研究開発投資額は、事業者による違いはあるものの、2000年代半ば頃と比べて増加している(図)。
 欧州電気事業連合会は、2013年に公表したレポートにおいて、従来事業の収益悪化が進む中、脱炭素化や分散化への対応はもちろんのこと、効率化だけでなく新たなサービスやビジネスモデルの創出へ向けて、イノベーションの重要性を強調している。イノベーションの重要性が、広く浸透しつつあることがうかがえる。

【オープンイノベーションの広がり】

 社内研究開発に加えて、外部の技術も活用するオープンイノベーションも拡大している。欧州では、早くて2010年前後から、2010年代半ばには主要な事業者の多くが取り組みを開始している。
 再生可能エネやエネルギー貯蔵、デジタル技術等を持つスタートアップ企業への投資・連携や、技術の公募、外部連携のための国外拠点の設立、外部人材の活用など、多様な取り組みが行われている。新たな技術の効率的な獲得や、開発速度の向上を追求していると考えられる。

【将来を見据えたイノベーションへ向けて】

 欧米の2000年代以降の歩みを振り返ると、わが国は研究開発を縮小し、欧米とは正反対の方向に進んでいることが浮き彫りになる。
 もちろん、欧米の研究開発強化やオープンイノベーションの取り組みは、未だ途上であり、脱炭素化や新たな事業創出に貢献するかは不透明である。ただし、わが国の電気事業の研究開発がさらに縮小することになっては、海外から取り残されてしまう可能性は否定できない。
 わが国の電気事業者においても、オープンイノベーションの活用も含めて、どのように研究開発を強化するのか、再検討する局面に差し掛かっていることは確かであろう。短期的な価格競争や効率化を超えて、電気事業の新たな時代を切り拓くイノベーションの創出が求められている。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
後藤 久典/ごとう ひさのり
2005年度入所。専門は電気事業経営(イノベーション、マーケティング)。

電力中央研究所 社会経済研究所 
エネルギーシステム分析領域(兼)エネルギーイノベーション創発センター 上席研究員
木村 宰/きむら おさむ
2002年度入所。博士(学術)。専門はエネルギー政策(温暖化対策)。

電気新聞2019年2月20日掲載
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