海外の電気事業者の研究開発の取り組みを紹介した前回(2月20日)に続き、本稿では送配電料金規制を通じて研究開発を促そうとしている英国に着目し、考察する。
【危機感から創設された推進策】
英国の送配電部門は、経営効率化を重視するインセンティブ規制を背景に、2000年代前半まで研究開発費を大幅に削減した。しかし、再生可能エネの大量導入が現実化し、従来の送配電技術では対応が困難であることが明らかになった。この事態に英国のエネルギー規制当局であるOfgemも危機感を抱き、送配電部門に研究開発の推進策を導入した。
具体的には、低炭素社会の構築に関連する研究開発支援の仕組みとして、送配電料金を通じて一定規模の資金を集めるファンドが2010年に創設された。ファンドの支援金の配賦先は、主に実証段階にあるプロジェクトを対象とし、実施内容や費用に関して総合的な観点から競争入札が行われ、Ofgemによって選定される。
この他、それまでの経営効率化の下、送配電事業者に研究開発の知見の蓄積が十分でないことや、低炭素社会の構築に求められるイノベーションの創出には多様な主体との関わりが必須であるとの認識から、ファンドの支援金を使用する際は、送配電事業者単体ではなく、研究機関や他企業などとの連携を条件としている。
こうした推進策は、2013年から導入された新たな送配電料金規制であるRIIOでも重要な要素として位置づけられている。
【推進策を契機とした技術交流の活発化】
このような推進策の下、英国では主に分散型電源の接続や需要制御等の研究開発が積極的に行われている。
また、第三者との連携が重視されているため、英国ではプロジェクトを共有するポータルサイトの創設やイベント等の機会が増加している。実際に、送配電事業者はこれらを活用し、多岐にわたる情報交換を活発に行いつつ、研究開発の高度化を図っている。
【推進策依存からの脱却】
英国では、推進策による研究開発の再興が評価されているが、これまで実施されたプロジェクトの原資の多くは推進策によるファンドに依存していると指摘せざるを得ない(図)。推進策では、プロジェクトの選定をOfgemが行うため、送配電事業者自らが、必要な研究開発を考案する体制の構築が課題となってきている。推進策の本来の狙いは、将来に向けたイノベーションの実現であり、研究開発がイノベーションに到達するためには、事業者が自律的に研究テーマを選定し、共同実施者や資金調達先を見出す力を培う必要がある。
【自律的な研究開発を念頭に置いた推進策】
Ofgemの推進策は、大幅に低迷した英国の送配電事業者の研究開発を見直す契機としては、一定の意義があったと思われる。わが国においても、送配電部門に対して効率化が重視されているが、その結果、自律的な研究開発が滞るような状況を避ける必要があるだろう。仮に、何らかの推進策を採用する局面では、将来的には政策的関与がなくても、事業者が自律的に研究開発に取り組む体制への移行を前提とする制度設計でなければならない。
電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
澤部 まどか/さわべ まどか
2009年度入所。専門は産業組織論。博士(商学)。
電気新聞2019年3月6日掲載
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