社会経済研究所

電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (177)

スマートメーターとカレー鍋は連携できるか?

 年度の変わり目は歓送迎会などの会場探しをする機会も多くなる。皆さんは、ぐるなび派、食べログ派、それともホットペッパー派?どれも一瞬で店の場所が表示され、便利である。

【API:インターネットの呪文】

 こんなに便利に地図を閲覧できるのは、GoogleがAPIを公開しているからだ。APIは「アプリケーション・プログラミング・インタフェース」の略で、ここではGoogleのデータにアクセスし、地図を表示するインターネットの呪文である。APIを活用すれば、他社サービスを自社サービスに組み込むことが容易にできる。「開けゴマ」の代わりに呪文を唱えると岩の扉ではなく、飲み屋の地図が開く。

【APIエコノミー】

 APIを社会に広く公開すれば企業にとってはプラットフォーム戦略上の強力な武器となり得る。社会にとっては「APIエコノミー」が創成され、異業種データ間の連携が進み経済活動の活発化も期待できる。また、積極的に自社システムに優良APIを取込み、協力会社とAPIを共有し業務効率を改善することはデジタルトランスフォーメーションの第一歩である。

【オープンAPI:先行する金融業界】

 既に銀行のオープンAPI化は始まっている。Fintech企業が、顧客の同意に基づき、銀行システムへアクセス、口座情報や入出金明細を照会し、振り込みを指示することも、可能になりつつある。なお、API利用者の利便性の観点からは共通化が重要だ。何れにせよ、電気事業が新規ビジネス等で利用するであろう金融系の環境整備や個人情報活用は進んでいる。

【API集積デバイス:電中研の取組例】

 電中研では「おうちモニターキット(OMK)」を開発し、国の実証事業の中で一般のご家庭で利用頂いている。この装置では電力消費量やCO2などを含む住環境をモニターし、お客様へ自動で省エネアドバイスをする。その構成は図1に示す通りである。従来、電子機器といえばICチップが並んだ基板をイメージするが、現在の電子機器の本質はAPIを沢山詰込んだ魔法の箱となりつつある。

【オープンAPI:電力分野へのインパクト】

 どんなオープンAPIが活用できるかは検索サイトで簡単に調べることができる。人工知能から音声認識、気象、地図、はてはお見合い情報まで盛沢山だ。
 スマートメータデータの活用に向けて有限責任組合「グリッドデータバンク・ラボ」が設立された。将来的に、スマートメータデータの防災など多分野での活用が期待される。スマートメータデータも共通のオープンAPI化が検討されるだろう。個人情報と統計データでは状況が異なるが、どちらもAPIを通したスマートメータデータと他のデータの連携が重要だ。NHKも有料で「きょうの料理」のレシピ1万2千点以上をAPIで公開している。スマートメータデータから活動状態や在宅人数を、気象データ提供APIから夜の気温を推定、レシピAPIを使って、一人の寒い夜に簡単で美味しい一人鍋を、お薦め料理としてアドバイスできるようになるかもしれない。よって、冒頭見出しの問いの答えは「Yes!」。
 次週は、弊所でデジタルトランスフォーメーションを担当する堤富士雄が専門的な視点からAPIを解説する。

図1

根本 孝七/ねもとこうしち
電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター所長 特任役員
1984年入所。専門は電気工学

電気新聞2019年3月20日掲載

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