社会経済研究所

電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (178)

Q 電力デジタルトランスフォーメーションは
APIエコノミーの夢を見るか?

 設備老朽化など、電気事業は複数の難題を抱えており、デジタルトランスフォーメーション(以下、DXと呼ぶ)による対処が開始されている。

【内と外の電力DX】

 電力DXを効果的に達成するには、電気事業の内と外の両方に対応したDXが必要となる(以下、内DXと外DXと呼ぶ)。
 内DXとは、電気事業を担う企業群の変革である。電力各社は内DXを目的に、デジタルと名のついた新しい部署や外部組織を設立している。設備運転へのAI 活用、需要予測シミュレーション、設備点検ドローンなどが対象である。将来はビジネスモデルおよび組織自体の変革も射程にある。
 外DXとは、デジタル技術で急変する世界に対応して、電気事業のステークホルダーが社会的役割を再定義することである。ステークホルダーとは電力会社、関連企業、アグリゲーターやユーザまでをも含む。例えばブロックチェーンやVPPを活用した電力流通・取引の実証が複数行われている。発送電分離を契機に、各社は、新しい事業目的をデザインし始めている。
 内外DXは連携する「もつれ」の関係にある。外DXで設定した事業目的を達成するように、内DXをデザインし実施する過程で、新たな社会的役割を鮮明化し、外DXを促進する。

【APIエコノミー】

 Googleらネット企業が提供するオープンAPIは使い方と窓口が公開され、広く普及している。なお、オープンAPI は無料・無制限を意味しない。多くのビジネス利用では費用が発生し、利用制限もある。
 APIエコノミーとは、多数の店が軒(API)を並べたマーケットである。例えば、国勢調査データと地図を重ねて、市町村の世帯数を色分け表示したり、IoTデータの処理・予測をAIなど複数のAPIの組み合わせで実現したりできる。APIエコノミーでは、必要に応じて必要な分だけ、企業間でデータが取引され、流通する。

【電力DXを促進するAPIエコノミー】

 図1は内外DXとAPIエコノミーの関係を示す概念図である。内DXでのAPIエコノミー利用は最新デジタル技術を利用する最も効果的な手段になりつつあり、既に開始されている。また電力会社などがAPIを提供することで、企業間連携を容易にし、ベンダーロックインを少なくする効果がある。将来は、A電力の設備診断APIをB電力が、逆にB電力の需要予測APIをA電力が利用するかもしれない。
 外DXの活動としては、電力会社がオープンAPIを提供し、電力以外のオープンAPIと連携することで、価値が生ずる可能性があり、グリッドデータバンク・ラボなどの成果が期待される。当所では電力需要などをIoT計測し、ユーザと共創する実験を通じて、空気環境や省エネに関する新たな価値につながる発見が得られている。

 最後に、外DXとの関係で、地域生活を支える電力会社が、APIエコノミーを維持、推進するプラットフォーマー(黒子)の役割を担うべきか、という重要な論点がある。私は、プラットフォーマーとして取り巻く難題への解決策を、多数のステークホルダーと共に考案する方向に大きな可能性(夢)がある、と考える。

図1

堤 富士雄/つつみ ふじお
電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター
デジタルトランスフォーメーションユニットリーダー 副研究参事
1990 年度入所。専門はAI、ユーザインタフェース、博士(工学)

電気新聞2019年3月27日掲載

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