【新たな事業として注目される情報銀行】
IOT技術の進展に伴い、パーソナルデータの活用に対する関心が高まっている。わが国では、個人の購買履歴や生活情報などの様々なパーソナルデータを、消費者の関与の下で円滑に流通・活用していくための仕組みが提案されており、中でも特に注目されているのが、「情報銀行」である。昨年度も複数の実証事業がなされるなど、事業化に向けた取り組みが進んでいる。
【消費者のデータ提供意向は不明】
情報銀行を事業として本格的に展開していくためには、消費者の自発的なデータ提供が不可欠である。しかしながら、わが国の消費者を対象にデータ提供意向を調査した『平成二十九年度 情報通信白書』では、消費者のデータ提供意向は、データの活用条件に応じて異なることが指摘されており、消費者の今後のデータ提供動向は不確実である。
そこで当所では、どのような要因が消費者のデータ提供意向に影響を与えるのかを分析するために、電力消費データと世帯情報に対する消費者の提供意向について、アンケート調査を実施した。
【消費者のデータ提供を促す要因とは?】
消費者によるデータ提供の意思決定に影響を与える要因として、①消費者が提供するデータの匿名性、②データの第三者提供先の選択方法、③データの利用目的、④金銭的報酬に注目した。
要因①、要因④に関しては、データの匿名性が高い場合、また、金銭的報酬が高い場合に、消費者のデータ提供意向が高くなることが確認され、直感と整合的な結果となった。
一方、要因②、要因③については、様々な第三者提供先の選択方法や利用目的について分析し、以下の示唆を得た。(図)
【第三者提供先の選択への関与が鍵】
消費者がデータの第三者提供先の選択に関与できる仕組みであれば、消費者のデータ提供意向は高まる。特に、最終的な提供先企業は情報銀行が選択するが、提供先企業のタイプを消費者に選択するといった、提供先の選択に「部分的」に関与できる仕組みに対し、消費者のデータ提供意向は最も高い。この時、図には示していないが、消費者は第三者提供先のタイプとして地元企業を選好しているため、地元企業と協力したデータ活用が重要となる。
【新サービス開発などのデータ利用目的も選好される】
消費者は、データ提供と同時に得られる便益だけでなく、便益の提供までに時間を要する新サービス開発のためのデータ利用や、消費者に直接的便益が生じない業務効率化のためのデータ利用に対しても、提供意向がある。特に、新サービス開発のためのデータ利用は、省エネアドバイスに次いで選好されており、これはデータを活用した新たなサービスの創出に取組む事業者にとって重要な結果といえる。
【消費者の認知や理解が肝要】
情報銀行事業は黎明期であり、本格的な事業展開はこれからである。消費者に活用される情報銀行を目指すためには、情報銀行に対する消費者の認知や理解を得ることが不可欠になる。そのためには、消費者に対する積極的なPRや、自発的なデータ提供を促す活用条件を模索していくことが重要となろう。
電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 特定主任研究員
田中 拓朗/たなか たくろう
2016年度入所。専門は実証産業組織論。博士(経済学)。
電気新聞2019年4月10日掲載
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