電気新聞ゼミナール

2019.05.15

土地利用の競合を回避する現実的な太陽光・陸上風力の設置可能量はどの程度か?

  • エネルギー政策
  • 再生可能エネルギー

電気新聞ゼミナール(181)

尾羽 秀晃  

 前回(5月8日)では、2050年に温室効果ガスを80%削減する際の電力需給の姿を示した。この長期目標の達成に向けて、地上設置型の太陽光(以下、PV)と陸上風力の活用が期待されているが、これら電源は最大でどの程度設置できるのだろうか。

【太陽光や陸上風力設置による土地利用競合】

 これら電源の導入ポテンシャルに関する研究は多くあるが、これまで風況や地形条件などは考慮された一方で、土地利用との競合や、環境との調和性は十分に考慮されていなかった。例えば、環境省による陸上風力の導入ポテンシャル調査では、森林に約2億5千万kWが設置可能とされているが、これは2MW風車で12万5千基に相当する。森林で再生可能エネの大規模開発が行われれば、生態系や景観への影響は無視できない。
 実際、PV事業によって、既に山手線の内側面積に相当する7千ha以上の森林が改変されている。このような環境破壊等の懸念に基づき、自治体条例により森林等での発電事業を規制する動きも広がっている。

【環境調和に配慮した利用可能な土地はどの程度あるか】

 日本の国土面積は約38万平方kmであるが、雑草地や裸地、荒廃農地のように、森林法などの法規制を受けにくい土地区分の面積は、合計4,650平方kmである。このうち、自然公園や自然環境保全地域、鳥獣保護区を除いた場合、残りの面積は3,428平方kmとなるが、これは全国土面積のわずか0.9%でしかない。今後はこの限られた土地の中で、PVや陸上風力の導入を図る必要がある。
 このうち約3割の場所においては、陸上風力の発電に適さない年間平均風速5.0m/秒以下の場所であるため、PV6,400万kWが設置可能である。一方、残りの約7割の場所においては、2,500万kWの陸上風力、もしくは1億6,600万kWのPVが設置可能である。なお、同じ場所に両方の電源を設置する場合、風力タービンの保守や設置に必要なスペース確保が難しくなることや、PVが風力タービンによる日影を受けやすくなるため、実際にはいずれかの電源が設置される可能性が高い。
 発電時間帯が異なる両方の電源を利用することを想定し、風況条件が悪い場所にPV6,400万kW,それ以外に陸上風力2,500万kWを設置した場合、両電源の年間発電量の合計は約1,200億kWhとなる。これは、現在の年間電力需要の約1割に相当する。

【地域偏在性に留意が必要】

 しかし、この想定には、経済性や系統制約は考慮されていないため、実際に設置できる設備容量は限られる。例えば、一般送配電事業者の各エリアに導入できる設備容量をみると、設置可能な場所は電力需要が少ない場所に偏在しており、一部では2017年度の最大電力需要を大幅に超過している(図)。
 このように、再生可能エネ電源の設置には、土地利用競合や環境との調和に加えて、地域偏在という制約がある。連系線増強や蓄電池設置などがなお高価である中で、図に示した導入ポテンシャルがどの程度社会経済的に利用可能かは、なお慎重な判断を要する。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 特別契約研究員
尾羽 秀晃/おばね ひであき
2017年度入所。専門は再生可能エネルギー政策。

電気新聞2019年5月15日掲載
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