電気新聞ゼミナール

2019.06.05

託送料金制度改革でインセンティブ規制を導入する場合の留意点は?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(183)

 欧米の先進事例を参考に、効率化の徹底と必要な投資促進を両立させる託送料金制度の在り方が検討されている。欧米の事例で主に参考とされているのが「レベニューキャップ」に代表されるインセンティブ規制である。

【インセンティブ規制の制度設計】

 レベニューキャップは、収入に上限を設定して一定期間改定しないことで、事業者に効率化努力を促す規制方式とされる。その制度設計を単純化すれば、①本格改定時のキャップ(収入上限)をどのように定めるか、②次の本格改定までの規制期間の長さをどうするか、③規制期間中の管理不能な要因による費用の増減を調整したり、効率化目標を織り込んだりするためのフォーミュラ(計算式)をどう設計するかという3つの要素に整理できる(図)。
 キャップは、効率的な事業者が財務の健全性を保てる水準に設定する必要があり、そのためには総括原価方式と同じように規制当局が費用の査定をせざるを得ない。ただし、次の本格改定までの規制期間を十分長くとり、その間の費用の変化については、事前に定めるフォーミュラでの調整にとどめることで、インセンティブ規制としての機能を有することになる。

【フォーミュラの設計におけるリスク】

 インセンティブ規制に特有の難しさは、適切なフォーミュラの設計にある。規制期間中の事業者が管理不能な不確実性による費用の変化に備えて、事前に様々な想定に基づく設計をしなければならない。しかし、適切なフォーミュラとならずに、効率的な事業者ですら財務の健全性を保てなくなる恐れもある。
 例えば、生産性向上分として、毎年一定の割合でキャップを引き下げる「Xファクター」と呼ばれる要素がフォーミュラに含まれることがある。このXファクターは、将来の技術革新等による生産性の向上を反映すべきだが、それを事前に把握することは難しく、実際には過去の経緯などから推計するしかない。最終的には規制当局の裁量で決まり、結果的に厳しい目標が課される可能性も否定できない。海外ではXファクターの設定をめぐる訴訟も起きており、慎重な検討が求められる。

【レベニューキャップの運用に伴うリスク】

 効率性の観点からは、レベニューキャップの方が従来の総括原価方式と比べて優れているとされる。規制期間中、事前に定めたフォーミュラの調整以外にキャップが変更されないことで、効率化による利益を獲得する機会があるためである。しかしそれは事業者にとって、規制期間中の値上げ申請が出来ず、収支が悪化するリスクがあることも意味する。これは、利益を獲得する機会と引き換えに引き受けねばならないリスクである。
 他方で、規制当局には、事前に定めたキャップやフォーミュラにコミットすることが求められる。キャップが原則固定されていなければならないのに、規制当局の裁量でキャップやフォーミュラが変更されれば、所期の目的である効率化を促すことはできないからである。
 こうしたレベニューキャップの趣旨を軽視した運用のリスクを抑えるためには、規制当局の裁量の余地を可能な限り限定的にしておくことが重要である。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域リーダー 副研究参事
服部 徹/はっとり とおる
1996年入所。博士(経営学)。専門は公益事業論。

電気新聞2019年6月5日掲載
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