現在、資源エネルギー庁の補助事業でVPPの実証試験が実施されている。事業者内の蓄電池等、小規模リソースの参加も期待されているが、需給調整市場設立後もVPP事業が実ビジネスとして成立し推進されるためには、様々な課題がある。制度設計では、調整力発動時の応答の正確な計量と、計量・制御等の費用軽減の両立への課題を整理する必要がある。
筆者らはDRの活用実績が豊富な米国の独立系統運用者・PJM の対応策を調査した。
【ベースラインの正確性の保持はVPP事業成立の要】
DR発動時の需要家応答を正確に計測するため、基準となる電力需要予測をベースラインと定義し、そこからの変動分を反応量と呼ぶ。ベースラインの正確性が大きく低下するリスクに、VPP発動時間の長さが挙げられる。PJMの10分予備力においては、一枠30分とし、発動前後の応答を比較することで、応答を評価する。
日本においても、ベースラインが正確性を保てる時間の長さを実証し、負荷の予測精度を確認しなければならない。例えば予測限界が30分であれば、30分で次のリソースに発動バトンを渡すなど、現状の制度ではリソースポートフォリオを整える必要があろう。
【個別計測の必要性とその問題点】
現状の日本のVPP実証試験では、受電点での計測が求められる。しかし、受電点以下の小規模リソースがVPP指令に応答しても、構内の他の電力需要の変動に影響され、受電点では正確に評価されない点が課題となっており、個別の計測機器設置の可否が議論されている。
PJMでも、基本的には受電点計測が義務付けられ、VPPの対象として機器個別計測が認められるのは、周波数調整市場で高速な応答を求められるリソースのみである。
個別計測を認可する上での課題のひとつは、需要家側の不正防止である。例えば、2台のターボ冷凍機を持つ需要家が、そのうち1台のみをVPP対象として登録し、VPP発動時は対象機器のみ指令通りに消費電力を下げ、非対象機器の消費電力は上げて、得られる冷水量は変えずに、VPP報酬を受け取る、という不正である。
PJMでは需要家の不正を防ぐ方策として、プロフェッショナル・エンジニア(PE、日本の技術士に相当)に頼るという制度的な工夫がされている。リソース登録時に、構内結線図を提出させ、同効用の機器が複数ある場合はすべて個別計測し、不正のないことをPEの署名付きで証明する必要があり、不正が発覚するとPEが処分を受ける。
日本で展開する場合、国家資格である技術士と電気主任技術者の活用も期待される。他にも、制御対象リソースからの計測通信に関する規格など、今後考慮すべき要素は多い。
【計量法改定の議論】
現状、日本で電気使用実績を測定し取引根拠とするためには、計量法に基づく検定メータの使用が義務付けられている。 仮にVPPにおいて個別計測が認可された場合に、全小規模リソースに検定メータを設置してはコストがかさむ。そこで、個別計測に非検定メータを用いることについて、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会にて検討されている。
PJMでも、基本的には受電点用メータとしての国内基準を満たす必要はあるが、高速な調整力のみ、PJMが一定基準の精度を確認したメータは例外的に使用が認められる。
日本の計測要件緩和でも調整力メニューに適合した対応が必要だ。
【需要側リソースの活用にむけて】
VPPを推進して需要側リソースを活用するためには、正確な計量にかかる費用の軽減も鍵となる。計量・評価に関する制度が必要以上に厳しいと、系統運用者による監視・確認の手間も大きい上に、市場で需要側リソース活用を試みるアグリゲータは増えず、将来の調整リソースの選択肢を狭める。制度設計の本質を見極めつつ、国内向けの制度を検討することが必要であろう。
なお、本稿の一部は一般社団法人 環境共創イニシアチブの委託を受けて実施した調査に基づいている。
坂東 茂/ばんどう しげる
略歴 エネルギーイノベーション創発センター カスタマーサービスユニット 需要デザイングループ 上席研究員
2010年度入所、 専門分野:エネルギーシステム分析、 博士(環境学)
山田 智之/やまだ ともゆき
略歴 エネルギーイノベーション創発センター カスタマーサービスユニット 需要デザイングループ 主任研究員
2018年度入所、 専門分野:エネルギーシステム分析
電気新聞2019年8月28日掲載
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