電気新聞ゼミナール

2019.09.11

欧州において送電と配電の連携が必要とされる背景と課題は何か?

  • 電気事業制度
  • エネルギー政策

電気新聞ゼミナール(190)

 再生可能エネ、電力貯蔵、DRを含む分散型資源(DER)の導入が進む欧州では、送電と配電の連携に様々な課題を抱え、その対応に迫られている。
 欧州の送電事業者(TSO)と配電事業者(DSO)は、歴史的な経緯で以前から別々の組織であり、何か合理的な理由があって一体だった組織を分離したわけではない。TSOに対してDSOの数が多いのも欧州の特徴の一つである。
 DERの量が限られ、電力の潮流が大規模電源から需要家への一方向しかなかった頃は(図左)、送電と配電を別の組織が担うことの不都合はそれほど生じていなかった。DSOは、規制料金の下、基本的には需要に合わせて設備投資を進めることで、低廉な料金と安定供給を維持できていたからである。

【DERの増加がもたらした懸念】

 ところが、DERが配電網に数多く接続申請されると、これまでのような設備投資による対応では、費用が巨額となり、料金の上昇も懸念されるようになった。そのため、できる限り設備投資を先送りする必要性が認識されてきた。2000年代以降、レベニューキャップ(収入上限規制)のような効率化を重視する料金規制が導入されてきたことも、こうした認識を助長した。
 設備投資を先送りするため、DSOは配電網に接続するDERが持つ調整力(フレキシビリティ)に着目してきた。これは、系統の運用者からの指令や価格の提示によって、例えば電源であれば、出力を抑制したり、増加したりするなどの調整ができる能力である。それらを活用して混雑を解消し、既存の配電系統をより効率的に運用することを目指しているのである。
 こうした対応は、フレキシビリティの確保や運用をめぐるTSOとDSOの関係を双方向的なものとする(図右)。そうした中でDSOによる地域的な混雑解消と、TSOによる系統全体の需給調整が、時に整合性を欠くことが懸念されるようになってきた。送電と配電の組織が別々のため、対応を複雑にしている面もある。だからといって、送電と配電を直ちに一体化すべきとの議論にはなっていないが、両者の連携を強化する必要性は、近年、盛んに叫ばれている。

【データの共有とフレキシビリティの効率的な確保が連携の鍵】

 送電と配電の連携に向けて重視されている取り組みの一つが、それぞれが持つデータの共有化である。既にいくつかの国では、デジタル化の進展を受け、電気事業に関わる様々なデータを一元的に管理するデータプラットフォームが構築されているが、その中でTSOとDSOが互いに系統のデータを共有し、連携の強化に活用していくことが期待されている。ただし、サイバーセキュリティには万全を期す必要もあり、技術的に検討すべき課題も多いとされている。
 また、フレキシビリティの効率的な確保も連携の成否を左右する。そのあり方については不確定要素も多く、DERの技術や規制の動向によって、DSOとTSOのどちらがより主体的な役割を担うべきかについて、異なる可能性も議論されている。
 フレキシビリティを取引可能な商品として定義した上で、それらを提供するDERから、DSOやTSOが調達できる新たな取引のプラットフォームの整備にも期待が寄せられている。次回は、その最新事例を取り上げ、現状や課題について報告する。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域リーダー 副研究参事
服部 徹/はっとり とおる
1996年入所。専門は公益事業論。博士(経営学)。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
古澤 健/ふるさわ けん
2007年入所。専門は電力系統工学。博士(工学)。

電気新聞2019年9月11日掲載
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