電気新聞ゼミナール

2019.10.16

行動科学やデータをどのように活用すれば、省エネサービスを改善できるか?(第2回) 省エネ情報提供を スマホで高度化

  • エネルギー需要
  • 企業・消費者行動

電気新聞ゼミナール(193)

 スマートフォン(スマホ)の普及と技術進歩は著しく、電気事業にとっても新たな顧客接点になりうる。前回(10月9日)は環境省ナッジ事業下の電中研参画プロジェクトの中から、郵送省エネレポートを紹介したが、今回は、スマホアプリを用いた約2千世帯の省エネ実証を通じて得られた知見を述べる。

【変化を随時通知】

 スマートメーターで計測する電気使用データの変化をスマホにプッシュ通知できるようにし、配信有無による差を比較検証した。
 その結果、通知により1%強の省エネ効果を確認した。例えば、使用量が「先週より5%増」と定期配信するレポート型の通知よりも、「昨日までの5日間で先週を超過」と随時配信するアラート型の通知のほうが開封率は高く、刺激的と評価する利用者もいた。また、1時間値が最大を更新した利用者には直後に通知し、その際には何分頃からの使用増が原因であるかを自動解説する機能も実装した結果、アプリの活用率は向上した。

【納得感のある比較をシームレスに実現】

 行動科学では、人には同調性があるため周囲比較は有効とされる。郵送レポートで「契約タイプや地域のよく似たご家庭」との使用量比較が有効だったことは前回述べたが、単身世帯同士といった実感の持てる比較を求める声はあり、その方が効果面でも望ましい。
 そこでアプリ実証では、利用者ごとに「東京都のペットがいる3人家族で、床面積百平米以上のオール電化の戸建住宅」といった比較を可能とした。そうした属性の組み合わせは無数にあり、比較に耐えうる数の同一属性世帯を抽出するのは現実的でないため、統計手法でこれを実現した。アプリなら属性設定とランキングが連動する仕組を実現しやすく(図)、省エネ効果拡大、顧客満足度向上、比較精度向上の好循環が期待できる。

【アドバイスのパーソナル化が容易に】

 省エネ意識の高いわが国で28℃冷房を勧めるだけでは影響力不足なため、「8百円節約」といった金銭メリットの訴求は勿論のこと、「6割の世帯が実施」といった周囲比較も加えた。こうしたアドバイスを隔週配信することで、1%超の省エネ効果が上積みされた。
 その際、パーソナライゼーション効果も検証した。例えばエアコン買替を勧める際に多消費世帯には「よく使うご家庭には特におすすめ」、快適性重視派には「掃除機能付ならお手入れも楽」といった関心事に応じた説明を追加、通知は各世帯の使用量が多い曜日に配信、といった工夫で開封率を向上させた。

【エビデンスベースの改善を高速化】

 こうしたエビデンスに基づき有効な要素を見極めながら、機能強化していった結果、アプリ利用世帯の省エネ効果は2年目に入ると4%超になった。適切な実験計画と効果検証は省エネサービス改善の知見を提供し、表示制御やログ取得に長けたデジタル技術なら、そのプロセスを高速化できる。

【継続利用の仕掛け】

 他方、現実には省エネ目的のみでアプリ継続利用を促すのは容易でない。今回用いたアプリはエアコン・照明などの遠隔操作機能を併せ持ち、便利で省エネにも役立つから使うという相乗効果が見られた。こうした拡張性はデジタル技術が得意とする所であり、サービス成功確率を高めるためには、省エネ、スマートホーム機能、災害時情報、製品購入・リフォーム勧奨などの連携も検討に値する。

 次回(10月23日)はIoTセンサによる行動観察を紹介する。次回(10月23日)はIoTセンサによる行動観察を紹介する。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域
(兼)エネルギーイノベーション創発センター 需要デザイングループ 上席研究員
西尾 健一郎/にしお けんいちろう
2002年度入所。専門は省エネ対策やエネルギー技術の評価。

電気新聞2019年10月16日掲載
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