【洋上風力の導入ポテンシャルは莫大?】
2019年4月に「再エネ海域利用法」が施行され、わが国でも洋上風力の導入に向けた本格的な取り組みが始まった。洋上風力の導入ポテンシャルは、環境省による調査(以下、環境省調査)に基づけば、わが国の周辺の海域で、最大約14億kWとされている。
しかし、環境省調査と同法に基づく洋上風力の「促進区域」の対象海域は異なる。例えば、前者では陸地からの距離を30km未満としているのに対し、後者は領海(約22km以内)を超えない範囲である。そこで、同法に基づく対象海域の詳細な分析を加え、洋上風力の導入ポテンシャル評価の基礎データを提示する。
【促進区域の海域はどの程度か】
当所では、地理情報システム(GIS)を用いて、わが国の周辺の海域を約500mのメッシュに分割し、自然条件や海域利用などのデータを整備することにより、促進区域の対象と考えられる海域面積を推計した。
本推計では内水を含む領海を対象とし、同法が規定する6つの要件を踏まえて海域を抽出した。例えば、自然条件の要件については、同法に基づくガイドライン上の記載を踏まえ、年間平均風速が毎秒7.0m以上の海域を対象とした(環境省調査は同6.5m)。
また、同法では航路への支障を及ぼさないことを要件としている。当所は、海上保安庁から自動船舶識別装置(AIS)を搭載した船舶(主に中型船以上が該当)の年間航行データを取得し、前述の各メッシュの中で、31隻/月、つまり毎日1隻以上が航行する海域を、主要航行ルートと想定し、対象から除外した。
以上により、わが国の領海までの海域(約43万km2)から、促進区域の対象と考えられる海域を抽出すると、その約12%である5.4万km2となる。仮にこの海域全てに洋上風力を設置した場合、3億2200万kWと、環境省調査の約2割となる。
なお、促進区域の指定にあたり、利害関係者との合意形成が必要となるため、実際に洋上風力が利用可能な海域は、更に減少することとなる。
【今後の導入ポテンシャル評価において何に留意すべきか】
今後の評価においては、促進区域の対象となる海域から、漁業や主要航行ルート外の船舶、景観等を考慮する必要がある。
例えば、漁業権が設定されている海域や、AIS搭載船が1~30隻/月航行している海域は、前述の対象区域5.4万km2の約7割に相当する。実際には船舶数などにも依るため、その全てが利用不可とは限らないが、漁業権者による承諾や、海運業者との調整が必要と推察される。
また、陸地に近い海域では、景観や騒音等による悪影響が懸念されるため、地域住民との調整が必要になる。例えば、徳島県鳴門市では、海岸から風車を見上げた際の角度を基準に景観影響を評価し、海岸線から810m圏内を「洋上風力事業の実施が不適なエリア」としている。しかし、わが国では、遠浅が続く欧州の北海等と異なり、離岸距離に応じて水深が深くなるため、陸地から離れるほど促進区域の対象となる海域は減少する。
このように、促進区域の対象とした海域の中でも、促進区域の指定にあたり、利害関係者との調整に依存する海域が多くを占めている。そのため、今後の長期エネルギー需給の検討において、このような点を導入ポテンシャル評価に考慮し、現実的な導入目標の策定を行うことが重要である。
電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 特別契約研究員
尾羽 秀晃/おばね・ひであき
2017年入所。専門は再生可能エネルギー。
電気新聞2019年11月6日掲載
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