電気新聞ゼミナール

2019.12.04

英国の新設の原子力発電に対する規制資産ベースモデルの導入は実現するか?

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  • 原子力

電気新聞ゼミナール(197)

 電力の自由化が進んだ英国で、野心的な脱炭素化の目標を踏まえ、政府は原子力発電の新設が不可欠としてきた。しかし、再生可能エネの発電コストが低下する中で、新規の原子力発電の費用削減が急務とされている。建設費用が巨額なことに加え、投資リスクの大きさから、民間での資金調達費用が膨らんでおり、その抑制のために政府が導入を検討してきた投資回収手法が、規制資産ベース(以下、RAB)モデルである。これは、プロジェクト単位で、インフラ事業などの設備投資費用を総括原価方式に基づく規制料金で回収する仕組みである。

【利益の安定化で資金調達費用を抑制】

 自由化後の最初の新設原子力発電所については、再生可能エネと同様に、FIT・CfDが適用されていた。これは、卸電力価格が変動する中で、売電収入を安定化させる仕組みであった(図)。しかし、建設前にストライクプライス(買取価格)を決め、建設開始後の費用増加のリスクは投資家が負うことから、資金調達費用は増加することになる。これが結果的にストライクプライスを押し上げたと考えられている。
 対して、RABモデルは、適正な事業報酬を含む総括原価に合わせて、規制料金の水準を決め、それを全ての需要家で負担することで、利益を安定化させる仕組みである(図)。建設開始後に費用が増加するリスクを需要家が負うので、投資家が負うリスクは抑えられ、資金調達費用を抑制できる。また、RABモデルでは、建設期間中から規制料金を通じた回収を始めることで、投資家のリスクはさらに抑えられる。建設が順調なら、脱炭素化に資する原子力発電の電力を安く調達でき、それが需要家のメリットとなりうる。

【導入上の懸念に対する政府の説明が鍵】

 RABモデルは、下水道事業などへの導入事例もあり、多くの需要家が共通で利用するインフラの投資への適用には向いている。しかし、市場で競争する電源の一つである原子力発電の新設にRABモデルを導入するには、それが社会にとって必要であり、その費用を需要家全体で負担することへの理解が必要との指摘がある。専門家の間では、一定規模の原子力発電を維持することが、野心的な脱炭素化と安定供給の観点から必要との見方もあるが、英国では近年、洋上風力などの発電コストが急速に低下してきたこともあり、政府に対し、丁寧な説明を求める声もある。市場で競争する他の電源への影響や、原子力以外の低炭素電源との公平な取り扱いにも配慮が求められるだろう。
 建設費用を管理する術を持たない需要家にリスクを負わせることへの懸念も指摘されている。政府が7月に公表した概要案では、極めて稀だが大幅な費用の上振れが生じるリスクに対して、政府が支援するスキームを設けた上で、基準となる当初の建設費用の見込みを上回った場合には、一定の割合で投資家にも増加分を負担させるようにしている。ただし、その詳細は未定であり、需要家と投資家の双方に受け入れ可能なものとなるかは不透明である。
 新設の原子力発電へのRABモデル導入の実現に向けては、こうした懸念に対して、英国政府が、どのような説明を行っていくかが注目される。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域リーダー 副研究参事
服部 徹/はっとり とおる
1996年入所。博士(経営学)。専門は公益事業論。

電気新聞2019年12月4日掲載
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