社経研DP

2012.05.18

リスク認知バイアスの制度的な補正

  • 企業・消費者行動

SERC Discussion Paper 12003

小松 秀徳   杉山 大志  

要約

 人間は様々なヒューリスティクス、すなわち素早いが必ずしも正確な判断を行うとは限らない意思決定プロセスを持つ。ヒューリスティクスに基づく判断は、リスクの大きさを客観的リスクに比べて極端に大きく(または小さく)評価してしまう傾向、すなわちリスク認知バイアスを生じさせ、結果的に不合理な意思決定に結びつく場合がある。例えば、多くの人が地球温暖化の影響(海面上昇等)や化石燃料の枯渇のリスクを大きく感じる一方、貯蓄を怠って老後医療が受けられなくなることのリスク等は小さく感じがちである。より合理的で、費用対効果の高い政策を実施するためには、リスク認知バイアスが何故発生し、どのように補正できるかを理解する必要がある。こういった認識は最近になってなされるようになったが、リスク認知バイアスの補正という観点に立った既存の提言のほとんどは、教育やコミュニケーションの充実によって改善されるとの立場に立つものであった。しかし、リスク認知バイアスのメカニズムに対する理解がなされていなかった頃からも、市民的な慣習であれ法律のような明文化されたものであれ、制度的にリスク認知バイアスを補正する試みは、様々な形でなされてきたと考えられる。
 本稿では、リスク認知バイアスの具体的例を挙げながら、それらがどのように制度によって補正されてきたかを概観する。これらのリスク事例を、過小評価されやすいものと過大評価されやすいものの2種類に分類すると、過小評価されやすいものについては、リスクを小さくするように補正を試みる制度が多く存在し、実際に運用されてきた。一方、過大評価されやすいものについては、リスク認知バイアスに引きずられるようにリスク忌避的に運用されている制度が比較的多い。ただし、多数とは言えないながら、過大評価されやすいリスクについて、制度による補正を試みた例や、実際に既に運用された例が見られる。

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