経済社会研究所

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No.49 論文要旨

持続可能エネルギーシナリオの検討(820 KB)

A Study of a Sustainable Energy Scenario

[キーワード]
世界エネルギーシステム、再生可能エネルギー、持続可能性、 最適化型世界エネルギーモデル、革新的発電技術

山本 博巳

工業化社会による大規模な化石燃料の消費は、将来的な化石燃料の資源枯渇だけでなく、地球温暖化ガスを排出する問題があるが、化石燃料消費をゼロとする持続可能エネルギーシステムとそれへの移行パス、定量的に評価されていない。
本研究の目的は、長期的な世界エネルギーシステム分析による、持続可能エネルギーシステムへの移行パスの定量的評価である。このため、世界土地利用エネルギーモデル(GLUE)を改良し、シミュレーションを実施し、以下の結果を得た。
持続可能エネルギーシナリオの2060年(その時点で化石エネルギー消費ゼロを達成と仮定)において、世界の支配的な一次エネルギー源は、水分解プラント直結太陽光発電(428 EJ/年)である。2番目、3番目に大きな一次エネルギー源は、それぞれバイオエネルギー(316 EJ/年)、大容量貯蔵設備付き太陽光発電(91 EJ/年)である。
このとき、電力供給における支配的なエネルギー源は、大容量貯蔵設備付き太陽光発電(91 EJ/年)である。BGCC(バイオガスガス化複合発電)、水力発電、および、小容量貯蔵設備付き太陽光発電の発電量は、それぞれ53, 46, 38 EJ/年である。
しかしながら、持続可能エネルギーシナリオのエネルギーシステムコスト(2060年、世界)は19兆米国ドル/年に達し、ベースシナリオ(化石燃料消費量あるいはCO2排出量の制約無し)のコスト(7兆米国ドル/年)の約3倍になる。

米国の原子力安全規制における内部告発制度の実態とわが国への示唆(1.3 MB)

Nuclear Whistleblower Protection System in U.S.
and Its Implication to Japanese Regulatory System

[キーワード]
原子力安全規制、NRC、Allegation Program、
Whistleblower Protection System

田邉 朋行 / 鈴木 達治郎

我が国に先行して原子力安全規制分野に内部告発制度を導入した米国では、(1)違法行為等の拡大・未然防止、(2)手続の整備と透明性の確保、(3)制度運用の裏づけとなる体制の整備、といった点で制度が有効に機能しているが、その一方で告発者保護制度の分野で事業者に対する敵対的な運用が行われる等といった問題点が見られた。
米国における制度運用の先例に鑑みつつ、我が国においては、(1)一層の制度運用手続の整備及び明確化、(2)社内対応(内部ルート)の位置づけの明確化、(3)告発内容の検証システムの拡充、(4)遵守すべき規制内容・基準の吟味、(5)事実確認がなされるまでの告発内容の非開示の担保を図ること、が今後の制度運用上の検討課題となろう。

日豪のRPS制度に関する一考察(1.0 MB)

Comparison between Renewable Portfolio Standards in Australia and Japanese System

[キーワード]
再生可能エネルギー、RPS制度、オーストラリア、日本

田頭 直人

わが国では、太陽光発電、風力発電、あるいは一般ゴミ発電等、石油や石炭の在来型エネルギーに代わる新エネルギーの普及を支援するために、2003年度から、電気の供給を行う事業者に、供給量に比例した一定割合で新エネルギー発電設備からの電力の調達を義務付ける、いわゆるRPS(Renewable Portfolio Standard)制度が実施される。
RPS制度は、現在欧州の各国や豪州、米国の州レベルにおいて実施されているが、国家単位では、2001年4月から実施された豪州の制度が世界初の事例であり、既に約2年間の実績がある。
本稿では、豪州のRPS制度の概要、2年間の実施状況等を報告し、さらに、日本と豪州の制度比較を行い、日本の制度の実施、あるいは今後の見直しに向けた検討課題について考察する

わが国電力ビジネスにおける企業の境界 (724 KB)

The Boundaries of the Firm in Japanese Electric Power Companies

[キーワード]
電力再編、垂直的統合、企業の境界、所有権アプローチ

小原 邦裕

電力ビジネスにおけるアンバンドリングの議論は,電力供給プロセスの発電から配電までの垂直的関係を分離する問題,すなわち,現行の電力会社の企業の境界を変更する問題である。
企業の境界は,Coase(1937)の先駆的論文が発表されて以来,経済学において重要なテーマの一つであった。Coaseは市場における独立の企業間の取引に伴う契約が不完備になることに着目し,市場取引が大きなコストを生み出すことを最初に指摘した。そして,企業が取引相手を統合して企業の境界を外に拡大することによって,取引コストの節減が図られると主張した。
しかし,統合によって新たに発生するコストについての分析は十分に行われなかった。この問題に,単純ではあるが整合的な解答を最初に与えたのが,Grossman and Hart(1986),Hart and Moore(1990)によって提唱された所有権アプローチである。
彼等は企業を物的資産の集合体として捉え,物的資産を所有することによって,その物的資産に関する残余コントロール権を獲得できるという前提の下で,統合における売り手と買い手の投資インセンティブの変化に着目し,企業の境界を決定するメカニズムを解明した。
この所有権アプローチの分析枠組みを用いて、電力ビジネスにおけるアンバンドリングの問題を考える判断材料を提供するために、1951年に行われた電力再編について理論的分析を試みた。
その結果、日本発送電株式会社の所有していた発・送電設備と配電会社の所有していた配電設備の適切な所有権構造は、電力供給力拡大を図る設備投資へのインセンティブの観点から、両企業が各々設備を所有して設備投資に関する意思決定が各企業の残余コントロール権に委ねられるよりも、垂直統合によって電力供給プロセスに必要な全設備を1社に集中する方が望ましいという結論、すなわち、電力再編時に選択された現行の発・送・配電一貫の電力供給体制は適切であったという結論が得られた。

気候変動への適応をめぐる国際交渉の分析 (751 KB)

Adaptation to Climate Change and International Negotiation

[キーワード]
気候変動への適応、途上国と気候変動、環境外交、京都議定書第二約束期間

上野 貴弘

今までの気候変動の国際交渉では、温室効果ガス排出削減という緩和策が議論の主題であり、気候変動への適応は従だった。
しかし、2005年からはじまる第二約束期間についての交渉では、適応への関心が高まると考えられている。同期間について先進国は一部途上国の排出削減約束を問題にし、これに対抗するために途上国が適応への援助を要求すると考えられるからである。
それゆえ、これまでの適応に関する交渉や合意の分析をもとに、適応策をめぐる今後の交渉の展開を読むことが急務とされている。その手始めとして、本稿はこれまでの国際交渉の適応に関する合意を網羅的に紹介し、さらにその合意に至るメカニズムを分析した。
交渉における南北間の戦略的相互作用をふまえて、合意に至るメカニズムを分析した結果、交渉の重大局面における南北間の妥協、及び途上国の条約参加への繋ぎとめという2つのメカニズムの存在を確認した。

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