経済社会研究所

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No.55 論文要旨

地域別フィリップス曲線と産業構造 (928 KB)

Japanese Phillips Curves by Area and Their Industrial Structures

[キーワード]
フィリップス曲線、ループ、一物一価の法則、地域特化指数、産業構造

浅子 和美 、小巻 泰之

 本論文では、日本の地域毎のフィリップス曲線を推計し、物価形成において地域間の相異があるのか否かを検証する。地域経済に関連した データでは、必ずしも都道府県別の物価や需給変数などが整合的かつ十分に整備されていないために、基本形としては、全国を9地域に 分割したデータを用いて計測する。
 計測結果は必ずしも頑健とはいえない部分もあるが、基本的には、確かに地域毎にフィリップス曲線の形状は異なり、特に関東・近畿・東海と いった都市圏の地域とそれ以外の地方圏の地域での相異が確認される。こうした相異が生じる主な原因としては産業構造の相異があり、 とりわけ製造業のシェアの違いが大きい。製造業のシェアの高い都市圏では、潜在的にはインフレ率には下方にバイアスがあり、対照的な 状況にある地方圏ではインフレ率には上方バイアスがある。
 これには別の解釈も可能である。すなわち、国民経済であまねく一物一価法則が貫徹しているとすれば、景気の跛行性などにより同時点での 地域毎の需給GAP に相異があれば、理論的には地域毎のフィリップス曲線の形状が異なったものでなければならないともいえるのである。

わが国のニューケインジアン・フィリップス曲線 (776 KB)

An Estimated New Keynesian Phillips Curve for Japan

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ニューケインジアン、フィリップス曲線、GMM 推定、ハイブリッド型フィリップス曲線

加藤 久和

 90 年代後半以降のデフレ現象を、将来の需給ギャップやインフレ率に対する期待要因から説明するには、フォワード・ルッキングな 要素を有するニューケインジアン・フィリップス曲線(NKPC 曲線)の推定が必要になる。本稿では、NKPC 曲線の理論的な背景を レビューした後、GMM 等の手法を用いてNKPC 曲線の構造パラメータを推定し、その結果から得られるインプリケーションをもとに、 90 年代後半以降のデフレ脱却過程を理解しようとするものである。本研究のオリジナリティとしては、構造的パラメータの推定に 重点を置いたことと、1980 年代以降の期間を分割し90 年代の特徴を示したことにある。
 NKPC 曲線の推定結果をみると、カルボ型モデルによる価格の粘着確率θはおよそ0.8 となり、一般的な価格の持続期間はおよそ 15 ヶ月程度となった。また、90 年代のほうが80 年代に比べ価格変更の頻度が高まったことがわかった。さらに、ハイブリッド型の NKPC 曲線の推定を通じて、フォワード・ルッキングな価格設定を行う企業の割合のほうがバックワード・ルッキングな価格設定を 行う企業よりも多いことが示唆された。
 以上の実証分析の結果を総合的に判断すると、わが国においてもニューケインジアン型のフィリップス曲線が成立していると 結論することができる。この点から、デフレからの脱却においては政策当局が行った期待形成が大きな役割を担ったことが示唆される。

輸入原油価格の国内価格波及に関する日米比較 (865 KB)

A comparative analysis on ripple effect of imported oil price hike in domestic prices between Japan and the USA

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原油価格、輸入原油集約度、輸入原油価格感応度、国内生産構造、産業連関分析

藤川 清史、下田 充、渡邉 隆俊

 2000 年以降原油価格は上昇を続け、2006 年には1 バレル70 ドルという歴史的な高値にまで高騰した。しかし、今回の原油価格高騰は、 各国に石油ショック時のようなパニックを引き起こさなかった.その一因として、石油ショック以降、先進各国は原油をはじめとする 資源節約技術の開発に努めてきたことが挙げられる。本稿では、国内経済の輸入原油集約度および国内物価の輸入原油価格感応度と いう2 つの指標を用いて、輸入原油価格の変化が国内物価にどの程度の影響を与えるかシミュレーションを行い、日本とアメリカにおける 長期での技術構造変化を比較する。
 分析の結果から次のようなことが確認された。日米とも、輸入原油集約度は、石油ショック直後に急速に低下したが、1980 年代の 後半になると、日本ではほぼ横ばいとなり、アメリカではやや上昇に転じさえしている。ただ、両国でそうした変化の要因は異なる。 日本では輸入原油投入率の低下と国内の投入構造の効率化が同時に起こったが、アメリカの場合は国内の生産構造効率化はあまり 進展しなかった。輸入原油価格の国内物価への波及をみると、日本では石油ショック直後はその影響はきわめて大きかった。 しかしその後、国内物価の輸入原油価格に対する感応度は、石油ショック前と同水準まで劇的に低下した。アメリカは、日本に比べて、 そもそも輸入原油価格の国内物価への影響はきわめて限定的であることがわかった。

原油価格高騰期の産業別物価変動−極分解法による今次原油高騰期と石油危機時の比較分析− (847 KB)

Japanese Industrial Prices Fluctuation in Soaring Oil Prices Period - Comparative Analysis of Soaring Oil Price Period since 2002 and Oil Crisis Periodby Polar Decomposition Method -

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原油価格高騰、産業別物価、産業連関分析、極分解法

服部 恒明、人見 和美

 2002 年初頭以来、原油価格が高騰し、日本経済への影響が懸念されている。本研究では、今次原油価格高騰期と第二次石油危機時の 2 つの期間を分析対象として、産業連関分析により、コスト構造の面から、原油価格を中心に、輸入物価、賃金、産業構造変化の 産業別物価への総合的な影響を明らかにする。「産業連関均衡価格モデル」を使って両期間における産業別物価の変動要因を分析し、 次いで、「極分解法」により、両期間の物価変動に関する比較分析を行う。さらに、エネルギー関連産業の投入構造変化の物価への 影響を分析する。
 分析結果によれば、コスト構造を反映した国内生産者価格上昇率(理論値)は、今次原油価格高騰期では年平均0.5%で、 第二次石油危機時(17.4%)と比べて16.9%ポイント低い。今次原油高騰期の物価上昇率が大幅に低いのは、賃金上昇率が低いこと (寄与率45.4%)、原油を含む輸入物価上昇率が低いこと(同20.4%)、産業構造が変化したこと(同34.3%)によるものである。
 産業構造の変化が物価上昇を抑えているのは、石油危機以降、各産業での石油・石炭の投入係数が名目、実質ベースともに 低下したためである。このうち、実質投入係数の低下は、電力産業での原子力発電への電源シフト、エネルギー多消費産業での 省エネルギー、省石油の進展などによるものであり、今後も、省エネルギー、省石油、脱石油の推進が望まれる。

1990 年代以降の財政政策の効果 (783 KB)

The Effects of Fiscal Policy Since the 1990s

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フォワードルッキングモデル、定常均衡モデル、政府債務残高、消費税率、 デフレーション

千田 亮吉

 本稿では、フォワードルッキングモデルとそれに終端条件を与える定常均衡モデルを用いて、1990年代以降のわが国における 財政政策の効果を定量的に評価した。シミュレーション分析の結果によると、財政支出の拡大や家計直接税の減税はたとえ それが恒久的なものであっても、将来の消費税率の引き上げを織り込んだ消費の減少によってその効果がかなり相殺される。 一方、法人税率の引下げは定常状態の実質GDP を上昇させることを通じて将来所得を引き上げ、消費と投資を拡大させる効 果がある。

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