経済社会研究所

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No.56 論文要旨

欧州における電気事業制度改革の動向と課題−第三次電力自由化指令案を中心として− (945 KB)

Status and Issues of the restructuring electric power markets in the US and EU countries

[キーワード]
欧州、電気事業制度改革、アンバンドリング、需要家保護、外資規制

丸山 真弘

 本稿では、2007年9月19日に欧州委員会が発表した、第三次電力自由化指令案を中心に、欧州における 電気事業制度改革の現状を概観し、今後の日本での制度改革を巡る議論において参考となる論点について検討した。
 第三次電力自由化指令では、一層の競争環境を確立するため、送電事業者と発電事業者の間の資本関係を完全に断ち切る 所有権のアンバンドリングを実施することを提案している。これに対しては、イギリスやオランダなど、既に所有権の アンバンドリングを実施している国が支持を表明している一方で、ドイツやフランスなど、法的アンバンドリングに 留まっている国は、私有財産権の保障などの問題があるとして、導入に反対している。
 これ以外にも、需要家保護の見地から小売自由化実施後も採用されている料金規制が、市場競争を歪めているのでは ないかという点や、需要家に対する適切な情報提供や需要家保護のあり方、EU域外の事業者がEU域内の電力市場に 参入することに対する規制のあり方といった点が問題となっている。

北欧電力卸売市場の経済物理学的解析 (741 KB)

Econophysical analysis of Nord Pool market

[キーワード]
経済物理学、市場価格変動、平均回帰性、ベキ分布、送電混雑の間隔

大西 立顕、水野 貴之、大藤 建太、南部 鶴彦

 価格変動と送電混雑の間隔に注目して北欧電力卸売市場を経済物理学的に解析した。まず、人間活動を反映して システム価格の変動には強い周期性があることを確認した。そして、周期性を取り除いた価格変動を解析し、 価格差は無相関だが価格差の大きさには長期相関があり、価格差の変位はベキ分布し、暴騰・暴落の起きる間隔は すそ野の広い分布をするというオープンマーケットでみられる普遍的な性質を確かめた。
 一方、数十日以上の長い時間スケールでみても拡散は遅く、一般の市場と比較して平均回帰性が強いことが分かった。 また、価格が上と下のどちらに先に到達するかに注目した連検定により平均回帰性の統計的有意性を示した。 次に、実際の売買に使われるエリア価格の分布を調べ、エリア価格はシステム価格から非常に大きく乖離することがある ことを確認し、乖離の大きさから送電混雑を定義した。送電混雑の間隔分布にはスケーリング関係があり、平均間隔で 規格化することでエリアや銘柄によらない同一の分布になることが分かった。さらに、混雑間隔列の系列相関を調べ、 ケンドールの順位相関と連検定により、連続する間隔の間の正の相関と混雑発生のクラスター性の統計的有意性を示した。
 以上の結果は、電力市場の安定性やリスク評価において重要な知見であり、電力市場における価格変動の理解を深め、 乱高下のメカニズムの解明に貢献するものと考えられる。

電力スポット価格形成モデルを用いたPJM市場の分析 (539 KB)

An empirical study of electricity spot prices in PJM market

[キーワード]
スポット価格、市場支配力、完全競争モデル、ゲーム論的モデル、スパイク、PJM

手塚 広一郎、石井 昌宏

 本研究では、電力取引市場におけるスポット価格形成に関する研究Ishii and Tezuka(2005)および石井・手塚(2007)を基に、 2005年1月1日から2006年12月31日の期間におけるPJM市場のデータを用いて、PJMにおける市場支配力に関する分析と考察を行った。 具体的には、PJMのスポット価格のヒストリカルデータ、完全競争モデルにより生成される価格データ、およびゲーム論的モデルにより 生成される価格データを比較することで、市場支配力の有無を観察した。また、スポット価格の急激な上昇とその後の下落という、 スパイクの現象を表現した。

日本卸電力取引所の取引状況と回帰分析による価格予想 (490 KB)

The agonizing reappraisal of JEPX and price expectation by the regression analysis

[キーワード]
日本卸電力取引所、電力価格、回帰分析、スポット市場、価格予想

下境 芳典

 本論では、2005年4月から取引が開始された日本卸電力取引所(JEPX)の市場状況を、公開データを基に概観するとともに、 回帰分析の手法を用い、市場を基礎的に分析した。さらに市場価格が、JEPXの主な設立目的である、電力価格の指標となり、 予想することが可能であるかどうか検証した。まず、約定価格(システムプライス)、約定量、売り入札量、買い入札量を、 月間、週間、24時間の区分で平均したものをグラフ化してデータに傾向や規則性が見られないか検証した。その結果、月、週、日の それぞれの区分において独自の傾向が見られることが観察された。次にシステムプライスを被説明変数として、約定量、買い入札量、 売り入札量を説明変数として回帰式を構成し、各変数とシステムプライスの関係を検証した。その結果、市場での需要と供給が価格に 与える影響力は、買い入札量のほうが強い傾向にあることがわかった。次にシステムプライス時系列分析し、過去のシステムプライスとの 関係を、1日、1週間、1ヶ月に分けて検証した。その結果、1日前のシステムプライスとはかなりの強い関係が示唆された。 これらの結果をもとに、システムプライスを被説明変数とし、24時間前のシステムプライスと買い入札量を説明変数とする回帰式が 価格予想式となりえるか検証した。その結果1日平均価格において、予想は上方バイアスがあるものの、可能であることが示された。 さらにスポット市場におけるシステムプライスについては、月別に回帰式を構成したものと、1日を48区分した時間帯別で回帰式を 構成したものとで、それぞれシステムプライスが予想可能であるか検証した。その結果、一日平均の回帰式と同様に上方バイアスがあるが、 両回帰式とも価格は予想できるという結論を得た。

電力需要関数の地域別推定 (468 KB)

Regional Electric Power Demand in Japan

[キーワード]
電力需要関数、価格弾力性、地域別需要

秋山 修一、細江 宣裕

 これまでの日本の電力市場改革に関する議論においては、電力市場を特徴付ける最も重要な要素の1つである需要の価格弾力性について、 たとえば、0.1やゼロといった非常に小さい値が先験的に仮定されてきたが、その仮定の妥当性について検証されたことはほとんどなかった。 本稿では、日本国内の電力需要関数を地域別に推定し、電力需要の価格弾力性を計測した。その結果、地域別の価格弾力性は、短期では 0.100から0.300の間、長期では0.126から0.552の間にあり、都市部よりも地方部の方が相対的に高い傾向があることがわかった。先験的に 仮定された0.1のような弾力性に関する仮定については、日本全体を集計して考える場合には一定の妥当性はあるものの、この仮定を地域別の 分析に当てはめることや、さらに小さい0.01やゼロという値を仮定することには問題があることが示された。

英独仏大口需要家の電力供給者変更に関する実証分析 (462 KB)

Empirical Analysis on Business Customers’ Switching Behavior of Electricity Suppliers in the UK, Germany and France

[キーワード]
電力小売自由化、英独仏大口需要家、供給者変更動向、消費者行動論、供給者変更行動モデル

後藤 久典、蟻生 俊夫

 我が国における電力小売自由化範囲は2000年以降段階的に拡大し、2007年には全面自由化導入の検討が電気事業分科会において再開された。 これまでの自由化の評価においても全面自由化の検討においても、競争の進展を測る基準の1つとして需要家による供給者変更行動が注目される。 本稿では、供給者変更行動について、市場全体での動向を把握する指標を提案すると共に、需要家の変更行動モデルを提案し実証分析を行う。 実証分析では、我が国に先駆けて自由化を実施した英独仏大口需要家を対象とした。まず変更動向の指標として、規制当局等で調査されてきた 累積供給者変更率と変更回数に加え、変更検討率と今後の変更意向を提案した。英独仏大口需要家に適用した結果、累積変更率では3国間に 大きなギャップがあったが、検討率と変更意向では英独の間に大きな差は見られなかった。変更回数からは英国で継続的な変更が進んで いることが判明した。変更行動モデルは、消費者行動に関する概念モデルを拡張し、過去と将来の2度の変更行動とその間のメカニズムについて 仮説を提示し、実証分析のため構造方程式モデルで表現した。実証分析の結果、自由化への評価が鍵となり英国で継続的な変更が進む行動パターンが 確認されたが、ドイツでは一時的な変更にとどまるパターンが見られた。フランスでは規制料金と併存する競争料金の高騰が変更を阻害している 恐れがあることを示した。これらの行動パターンは競争状況のマクロ動向と整合的であり、提案したモデルの有効性を示す証左といえる。 ここで提案した指標と行動モデルによる分析を国等が行う定期的な競争評価に組み込むことで、変更行動の理解が深まると期待される。

高速インターネット接続サービスの需要代替性−成熟期に向かうブロードバンドの計量経済分析− (421 KB)

Demand substitutability of high-speed Internet access services :Econometric analysis of Japan's mature broadband markets

[キーワード]
インターネット、ブロードバンド、FTTH、ミックスド・ロジット・モデル

依田 高典、坂平 海

 日本のブロードバンドは、高速化と低料金化が進み、特にFTTHの普及において世界の中でも際だっている。本論文は、成熟期に向かう 日本のブロードバンド需要を計量経済学的に分析した。本論文の主要な結論は次のようにまとめられる。第一に、需要の弾力性を見ると、 ADSLは非弾力的であるが、FTTHとCATVインターネットは弾力的である。第二に、2005年と2006年の間の需要の弾力性の変化を見ると、 数字は2倍近く上昇している。第三に、FTTHの需要の弾力性は、戸建市場の方が、集合住宅市場よりも高い。

寡占的電力市場における送電投資 −我が国電力市場へのインプリケーション− (509 KB)

Transmission Investment in Oligopolistic Electricity Markets:Implications for the Japanese Electricity Market

[キーワード]
電力市場、送電投資、クールノー競争、シミュレーション

田中 誠

 我が国の卸電力市場を分析した先行研究と比較して、本稿は次の二つの特徴をもつ分析を行う。第一に、本稿は、東西に跨る我が国の 卸電力市場を対象として、各地域を結ぶ連系線の送電容量制約を考慮しながら、MCPモデルに基づくクールノー競争のシミュレーション 分析を行う。特に、夏季ピーク期と軽負荷期の両方を想定したシミュレーションを行う。第二に、本稿は、50Hzと60Hzの周波数変換設備を 含む東西間の連系線に関して、送電容量を増設するケースの分析を行う。近年我が国では、東西を結ぶ連系線が市場取引のボトルネックと なっているとの指摘がある。そこで、寡占的な市場環境のもとで、東西間の連系線を増設することによる効果や費用について考察を行う。 主な分析結果として、本稿の想定のもとでは、東西を結ぶ連系線の送電容量を2倍に増設する場合に、周波数変換設備と送電線等を合わせた 総建設費用が約2000億円以下であれば、たとえ軽負荷期であっても社会的余剰の増分が資本費の増分以上となるものと推定される。この場合には、 東西を結ぶ連系線の増設が社会的に望ましい可能性が高いといえよう。投資インセンティブに関しては、東西を結ぶ連系線の両端の 電力会社間で利害対立が発生する可能性が高い。そのため、電力会社の自発性に任せる場合には投資が進まない恐れがあり、社会的な観点から 中立的に利害調整を行うことが重要となる。

公益企業のガバナンス構造と経営効率性 (516 KB)

Governance Structure of Public Utility Firms and Firm Efficiency

[キーワード]
コーポレートガバナンス、所有構造、取締役会改革、経営効率性

尾身 祐介

 本稿は今までほとんど分析の対象となることがなかったわが国の公益企業のガバナンス構造に焦点を当て、公益企業の株式所有構造と 取締役会の構成が近年どのように推移してきたかを概観した。さらに、公益企業のガバナンス構造が経営効率性にどのような影響を与えたか についての計量的な分析をおこなった。
 本稿で確認された公益企業のガバナンス構造の特徴は、@外国人による株式所有は近年急増しているが、その水準はわが国の全上場企業の それと比べ依然低い水準にあること、A従来安定株主と考えられた銀行や生損保による株式所有は全上場企業における傾向と同様に、 近年減少傾向にあること、B公益企業の取締役会の規模は縮小傾向にあるものの、人数上の比較では東証全上場企業のそれよりも大規模であること、 ただし企業規模を考慮した上で両者を比較してみると、公益企業の取締役会規模は東証全上場企業のそれと比べ小さいこと、C公益企業の 社外取締役比率は増加傾向にあるものの、その水準は東証全上場企業の社外取締役比率に比べ低いこと、であった。
 こうして明らかになった公益企業のガバナンス構造が経営効率性に与える影響を計量的に分析したところ、外国人及び安定株主による 株式所有と取締役会規模縮小は公益企業の経営効率性と有意に正の関係にあり、公益企業のガバナンス構造が経営効率性に寄与していることを 示唆する結果となった。

環境要因を補正した日米電気事業者の効率性比較 (645 KB)

Comparison of Adjusted Management Efficiency of Vertically Integrated Electric Power Companies between Japan and the U.S.

[キーワード]
データ包絡分析法、コスト効率性比較、垂直統合型電気事業者、データ補正、電気料金

筒井 美樹、刀根 薫

 本稿は、データ包絡分析法(DEA)を用いて、垂直統合型電気事業者の効率性計測を試みる。一般的なDEAの効率値は、事業者の外部環境要因の 控除がなされておらず、バイアスがかかっている可能性がある。そこで本稿では、このような環境要因の補正を行った効率値の計測を試みるとともに、 垂直的構造の考慮、より詳細な非効率情報の提供といった点にも着目した、より実践的なモデルを採用する。これを日米の垂直統合型電気事業者の 総合コスト効率性計測に適用し、結果を比較することで、日米の総合コスト非効率、さらには電気料金格差の要因を検証する。その結果、 わが国の電気事業者の総合コスト効率性は、米国よりも劣っていることが示された。さらに、総合コスト非効率部分を複数要因に分解し、 その主要因について検証すると、生産活動における投入量や生産量に関わるフィジカルな技術効率性や、投入要素の適切な配分に関わる 配分効率性が劣っているのではなく、投入要素単価の高さが総合コスト非効率の主たる要因であることがわかった。これは、電気料金の 日米格差が割高な投入要素単価要因に起因することを示唆する。しかしその要因の多くは、高い需要密度、高度な電力システムの品質や 環境対策等といった、日本の電気事業一般の特質によって説明することができ、個別の事業者に起因するものでは無いことが示された。 これらの外的要因の補正を行った効率値を比較すると、日米電気事業者の総合コスト効率性はほぼ同程度であり、このことから、わが国の 電気料金は割高ではあるものの、その大半が電気事業者の外的要因に依存していると指摘できよう。

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