経済社会研究所

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No.57 論文要旨

原子力リスク問題に関する住民参加手法の評価―参加住民は何を重視するのか− (945 KB)

Evaluating Risk Communication Activities of Nuclear Energy
Utilization:Participant-Based Criteria and Practical Implications

[キーワード]
リスクコミュニケーション、原子力リスク、参加者による評価

土屋 智子、谷口 武俊、盛岡 通

 2000年以降、我が国においても様々なリスクコミュニケーション活動が行われるようになってきた。原子力問題のように、従来、専門的知識が必要とされていた領域でも、市民・住民が参加する活動が行われている。しかし、市民や住民の参加の形態として何を留意すればよいかについては、米国等のマニュアルやガイドラインに依存している状況である。本稿では、原子力リスクを扱う2つの実践事例を取り上げ、住民参加の場がどのように設計され、運営されているかとともに、参加者自身が住民参加の場をどう評価しているかを分析した。
 その結果、1.参加者は立場よりも議論の場における意見の多様性を重視していること、2.立場の違いを重視すると議論の場は対立的になりやすく結果の評価が低くなること、3.成果は限定的でもよいが、プロセスや決定に関与することが求められること、が示された。これらの参加者評価は、マニュアルやガイドラインが示す方法に固執することなく、地域社会の事情に合わせて参加者を選定すること、目的設定や運営に参加者が関与する必要があることを示唆している。

原子力発電所関連PR館における情報共有の実態と運営の課題 (741 KB)

Research on Visitor Center of Nuclear Power Plant-An Analysis of Shearing Information, and Difficulties of Visitor Centers’ Management

[キーワード]
PR館、情報共有、電力会社、原子力発電所、展示

勝木 知里、木村 浩

 2005年度〜2006年度にかけて、電力会社の原子力発電の広報の一端をにな う原子力発電所のPR館職員に、「情報共有」をキーワードとした聞き取り実態調査 を行った。この調査を通して、PR館における情報共有の実態と、様々な要因による PR館活動の困難さが明らかとなった。当初目的の情報共有については、基本的には 大きな問題は見受けられなかった。しかし、電力会社からの外部委託によるPR館運 営の実態と、見学自粛を余儀なくされた社会状況の変化など、当初予想しなかった 問題が調査の過程で見えてきた。
 調査結果を基に、各PR館が共通して抱えている問題点を抽出し分析した結果、いく つかの共通課題が見えて来た。特に、社会環境の変化と連動している問題について は、個別のPR館、あるいは各電力会社がそれぞれに対応する問題ではなく、業界全 体として将来の理解獲得のための検討が必要と思われる。

ステークホルダの空間的な広がりが意思決定プロセスに及ぼす影響−施設立地に対する市民の態度形成の分析− (539 KB)

Influence of Stakeholders' Spatial Extent on Decision Making Process
- From an Analysis on Citizen's Attitudes towards Facility Siting -

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市民参加、合意形成、公共政策、地域コミュニティ

馬場 健司

 市町村合併が進み、より広域での政策課題の解決が求められるケースが多くなって いる。本稿は、施設立地問題を題材としてステークホルダの空間的な広がりに着目 し、環境論争が発生し得る公共政策の実施に際しての意思決定プロセスに対する市 民の態度形成を分析することにより、今後の地域コミュニティにおける公共政策の 実施において留意すべき点について論考を加えた。仮想的な施設立地に対する市民 の態度形成に係るデータ分析の結果、まず、個人属性の影響が最も大きく、新聞を 詳しく購読し、環境団体などの情報誌を購読し、国政や地域環境問題に対して関心 を持つ人ほど高い関与意向を持つ傾向が観察された。また、地域コミュニティとの 高い関係性を持つこと、例えば自治会へ積極的に参加することや人づきあいの幅が 広いことなどが、当該問題についてのリアリティや態度を形成し、関与意向を高め ている。さらに、しがらみや世間に対する一般的な価値観は、ステークホルダの空 間的な範囲には依存せず関与意向を低め、合意形成の方法ひいては政治や政策決定 に対する価値観は、ステークホルダの空間的な範囲が広域的であるほど関与意向が 高くなる傾向が観察された。以上を踏まえると、広域化の進む地域コミュニティに おける公共政策の留意点の1つとして、しがらみに配慮しつつもパターナリスティッ クな介入による問題解決、そしてそれを可能にするための自治会などの地縁的集団 と、地縁に依存しない専門性や職能性を中心とするNPOなどの集団の双方を視野に入 れたソーシャル・キャピタルの醸成と維持が挙げられよう。

情報格差のある二者間における情報提供戦略と信頼獲得 (490 KB)

Effects of Informing Strategies on Earning Trust of Receivers toward the Providers with Information Inequity

[キーワード]
信頼、情報提供、情報格差

小杉 素子

 本研究は、情報の提供者と受け手との間に情報格差が存在している状況において、 どのような情報提供戦略、特にネガティブ情報の提供戦略が受け手から提供者への 信頼の向上、もしくは信頼低下の抑制に効果を及ぼすのかを明らかにすることを目 的としている。そのために、情報提供場面を模擬した二者ゲームを設計して実験室 実験を行った。実験では、参加者は二人一組のペアになり、情報提供者役と受け手 役とに分かれ、提供役は実験者から与えられた情報リストからいくつかの情報を受 け手に提示し、受け手は提示された中から一つを選択する(受け手は、提示された 情報を受け入れたくない場合には拒否することも可能)という試行を繰り返した。 情報格差として、情報リストの全ての内容は提供者のみ知ることができるようにし た。また、情報は、提供者と受け手の利益が必ずしも一致しないよう、数値を用い て提供者有利、受け手有利、平等な内容の3種類とした。
 実験の結果、何も情報を提供しないこと(非提供)が受け手から提供者への信頼を 低下させること、複数種類の情報を併せて提供することが信頼を高めることが示さ れた。受け手は提供者の提示内容から、提供者が不公正に振る舞っていると感じた 場合に拒否を選択する傾向があり、受け手から情報を拒否された次の試行ほど、提 供者は非提供を選びやすいことも分かった。また、非提供を高頻度で採用する提供 者は受け手に対する信頼が低いことも示された。

賢慮のマネジメント−電力会社におけるリーダーシップ論構築に向けて−  (468 KB)

Management by Prudence Leadership Theory in the Electric Power Company

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動的プロセス観、知識創造、人間観、賢慮、モティベーション

成田 康修、吉田 久、坂井 秀夫、平田 透、野中 郁次郎

 企業経営においては、人間をどのような存在としてとらえるかという「人間観」に よって考え方や方法論が根本的に異なってくる。経営学における理論の主流は、新 古典派経済学を基礎に、人間を経済合理性によって行動する主体と位置づけ、科学 的な経営手法を確立しようというものであった。しかしながら、人間は合理的で客 観的な存在であると同時に、主観的存在でもある。企業においては、人間のもつ信 念や価値観が判断に影響を与える。このような問題意識から、本論では流動的環境 におかれた電力企業のリーダーに求められる能力とは何かを考察していく。
 まず、電力事業の特殊性および環境変化について整理する。次に、組織活力を引き 出す考え方の代表であるモティベーション理論を概観する。そのなかでも、実務に おいて組織活力導出の基本的考え方となっている期待理論について触れる。しか し、人間は経済人的側面だけから捉えきれるものではなく、期待理論では自ずと限 界があることを指摘する。われわれは、人間とは能動的で動態的存在であるとし、 新たなアプローチとして、ホワイトヘッドの考え方に基礎を置いたプロセス視点の マネジメントを提唱する。これらの主張を踏まえ、求められるリーダーの能力とは 「賢慮」であることに言及し、知識の時代といわれる21世紀をリードする企業組織 となるためには、賢慮型のリーダーを育成すべきであることを提言する。

アジア太平洋地域内の産業内貿易−国際産業連関分析− (462 KB)

Intra-industry trade within the Asia-Pacific region: an international input-output analysis

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産業内貿易、アジア太平洋地域、接続国際産業連関表、クラスター分析

矢野 貴之、小坂 弘行

 本稿では、国際産業連関表を用いた産業内貿易の分析を行う。国際貿易論において は、伝統的なヘクシャー=オリーン・モデルの世界から離れて、産業内貿易を説明 する理論モデルや実証研究が盛んに行われている。しかし、これまでに行われた国 際産業連関表を用いた産業内貿易の実証研究には、分析結果に重大な影響を及ぼし かねないデータと産業内貿易指数の定義に関する問題がある。本稿では、これらの 問題点を説明し、それらの修正を試みる。そして、1985-1990-1995-2000年接続アジ ア国際産業連関表を用い、その修正された産業内貿易指数を財別産業別及び財別経 済別に求めることでアジア太平洋地域内の産業内貿易について分析する。

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