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財政展望:急がれる財政社会保障改革

1. はじめに

 わが国の財政・社会保障をとりまく環境は非常に厳しい状況にある。長引く経済の低迷、デフレの長期化などから、税収が大幅に落ち込み、社会保障負担(家計・企業負担分)も伸び悩んでいる。一方で、人口の高齢化による年金・医療などの社会保障給付が増加し続けており、年金・医療財政が悪化しつつある。こうした税収の低迷や社会保障給付の増大などが政府の財政赤字を拡大しており、国債、地方債残高の累増を招いている。以下では、持続的成長を達成するために必要な財政社会保障改革の方向性を示し、そのシナリオの下での財政構造を展望する。これによって、中央政府、地方政府、社会保障基金の財政収支を見通し、将来の増税の規模や国債残高、社会保障負担と給付などを明らかにする。

2. 財政展望の前提条件

財政動向に大きく影響する経済成長率は2000〜2025年間では、実質平均で1.0%、名目2.4%と低成長を見込んでいる(マクロ経済展望参照)。また、総人口は2006年にピークを迎えたあと減少していく(人口展望参照)。2000年に17.4%であった65歳以上人口比率は2025年には29.2%と急速に高齢化が進む。

 展望では、本格的な財政再建を前提として、公的固定資本形成の対名目GDP比は現在およそ5%であるが、2025年頃までに3%程度にまで圧縮されると見込んだ。また、名目政府最終消費支出は、公務員数の削減などを織り込み、1990年代の年率3%超の伸びから2.1%の伸びにまで抑制されると見込んでいる。国と地方との財源配分についても見直しを織り込んでいる。

 社会保障関係では、厚生年金の給付率の引き下げとともに、負担率の上限設定を行い、現行で3分の1の基礎年金の国庫負担比率を2005年度から2分の1に引き上げることを想定した。また、医療費については、患者負担比率の緩やかな上昇を見込んでいる。

3. 財政収支は10年以上かけて均衡へ

一般政府全体の財政収支は、現在約30兆円の赤字が徐々に縮小し2015年頃までに均衡し2025年では28兆円の黒字を計上する。財政収支の改善は、消費税増税などを柱とする財政改革、新成長産業の育成・拡大といった内需拡大の総合的な効果による。

国債残高は2003年3月末現在で500兆円であるが、2025年には890兆円に達する。財政が破たんするかどうかを判断するには、国債残高の対名目GDP比が一定もしくは低下傾向にあるか、それとも発散傾向にあるかが重要な指標となる。国債残高の対名目GDP比は2011年に129%とピークを打ち、2025年には100%にまで低下する(図1)。したがって、増税を含む厳しい財政再建、新成長産業の育成などの政策を強力に推し進めることによって、国の財政破たんはかろうじて免れると予想される。

4. 増税と社会保障負担増で国民負担率は50%台へ

国民負担率(租税と社会保障負担の合計の国民所得に占める割合)は現在の39%が2025年には56%にまで上昇する。経年的に見ると、消費税率が2015年以降は横ばいで推移するため税収の伸びが緩やかになること、また社会保障負担も2015年ごろから厚生年金保険料率が上限に達して伸びが鈍化することによって、2015年ごろまでは急テンポで上昇するが、それ以降は55〜56%でほぼ横ばいとなる。財政赤字は将来の増税に結びつくため、租税と社会保障負担に財政赤字を合算した潜在的な国民負担率の動きも重要である。この潜在的な国民負担率は、財政赤字が続く2015年頃までは、通常の国民負担率より高く、2000年の47.0%が2015年頃に55.1%とピークに達する。それ以降では財政収支の黒字化によって低下し、2025年に51.5%となる(図2)。


図1 国債残高と対名目GDP比

図2 国民負担率の内訳と潜在国民負担率
 

5. まとめ

財政破たんを避けるためには、近い将来、おそらく5年以内には、政府は大幅な増税に踏み切らざるをえなくなるであろう。しかし、増税のみでは経済に負担がかかりすぎる。新成長産業を創出し経済を活性化するための減税や補助金、公的資金の投入、中央政府と地方政府の財政面での役割分担、社会保障制度の改革など、総合的な視野に立った抜本的な財政改革が早急に必要である。

(社会経済研究所 主任研究員 星野 優子)

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