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エネルギー展望:世界エネルギー需要は堅調

1. はじめに

日本は原油、天然ガスなどの一次エネルギーのほとんどを海外に依存しているため、国際エネルギー情勢は国内経済、エネルギー動向にも大きな影響を及ぼす。今回は、将来の世界のエネルギー需給および国際一次エネルギー価格の展望結果を紹介する。

2. 世界エネルギー需給

世界の実質GDP成長率は1999〜2025年間平均では、年率2%台半ばと見込まれる。地域別では、G7(先進7カ国)が1.6%、中国が5.3%、中国を除くアジア計が4.3%と、アジアで高めの成長が予想される。これを反映して、世界のエネルギー需要はG7では0.7%と低調だか、アジアが3.6%と好調に推移し、全体では2.0%で増加する。この結果、世界の一次エネルギー需要に占めるアジアのシェアは、1999年の19.0%から2025年には28.6%にまで上昇する。

エネルギー種別では、地球温暖化問題や環境問題の高まりを背景に、世界的に天然ガスへの志向が高まり、発電部門を中心に石油から天然ガスへの代替が進む。世界の天然ガス需要は2.9%と最も高い伸びとなるが、石油、石炭需要もそれぞれ1.8%、2.0%と堅調に推移する。アジア地域では発電部門を中心に依然として安価な石炭への依存度が高く、2025年時点でも石炭の依存度は5割を超える(図1)。


図1 一次エネルギー需要の地域別シェア (1999年、2025年)

原油生産については、ここ数年来、石油価格の高止まりや外国資本による生産設備への投資の増加によって、旧ソ連の生産量回復が著しい。しかし長期的にみると、旧ソ連を含む非OPECでは、徐々に良質な油田の枯渇が顕在化するため、豊富な埋蔵量を持つOPECの生産シェアは1999年の38.8%から2025年には50.3%へと拡大する。このためOPECが再び国際石油市場での価格支配力を強めることも考えられる。

石油の枯渇可能性については、展望期間中の累積原油生産量0.8兆バレルに対して、確認埋蔵量だけでも2001年末で約1.1兆バレルであり、展望期間中には起こり得ないと考えられる。

3. 国際エネルギー価格

展望に用いた当所の世界エネルギーモデルでは、世界一次エネルギー市場での需給均衡を達成する国際一次エネルギー価格の経路を求めることができる。アジアを始めとする堅調なエネルギー需要の伸び、OPECの支配力の高まりなどから、展望期間中の国際エネルギー価格は緩やかに上昇する。しかし、実質ベース(1999年米ドル価格)でみればわずかな上昇ないしほぼ横ばいであり、一次エネルギー資源の枯渇に伴うエネルギー価格の急騰といった状況は避けられる。

国際石油価格(WTIスポット)は1999〜2025年間では年率3.2%で上昇し、2025年では名目で43.4ドル/バレルに達する。実質ベースでは、2025年では23.2ドル/バレル、1999〜2025年間では年率0.7%の上昇となる。石炭価格(北西欧州市場価格、McCloskey)は2025年には名目で47.8ドル/トン、実質ベースで25.6ドル/トンとなり、実質ではほぼ横ばいとなる。アジアのLNG価格(日本の輸入CIF価格)は2025年には名目で7.4ドル/MBtu、実質ベースでは3.9ドル/MBtuとなり、実質では年率0.8%の伸びとなる(図2)。


図2 一次エネルギー価格 (名目、米ドル)

経済成長とエネルギー需要は密接にリンクしており、経済成長率の想定が変われば、エネルギー需要の変化から、エネルギー価格も影響を受ける。仮に、中国の経済成長率が上記ケースと比べて2005年以降1%ポイント高まると、エネルギー需要の増加から、石油価格は2025年時点で約1ドル(2.1%)上昇する。さらに3%ポイント高まると約3ドル(7.4%)上昇する。中国は2025年時点でも依然として石炭への依存度が6割強と高いため、中国経済の動向は原油価格より石炭価格への影響の方が大きく、3%ポイント上昇ケースで石炭価格は2025年で3割弱上昇する。

4. おわりに

2025年までという期間では原油が枯渇に近づき、価格が高騰するという事態には至らない。しかし、OPECへの依存は確実に高まることから、特に中国の経済成長が上向いたり、アジアにおける原子力開発が停滞したりすれば、化石燃料価格はいっそう上昇することが懸念される。

環境面での特段の政策を考慮しない今回の基準ケースによれば、中国や南アジアでは国内に豊富な埋蔵量を持ち、コストの安い石炭への依存度が高止まりすることが予想される。地球温暖化問題の解決に向けては、アジア地域における環境政策が一層重要となるであろう。

(社会経済研究所 主任研究員 星野 優子)

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