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エネルギー展望:国内エネルギー需要は低迷

1. はじめに

 経済活動とエネルギー需給は密接に関係している。経済拡大はエネルギー需要を増やし、エネルギー不足は経済成長を抑制する。また、日本は原油、天然ガスなどの一次エネルギーのほとんどを海外に依存しているため、国際エネルギー情勢が国内経済、エネルギー動向に大きな影響を及ぼす。今回は、将来の国内のエネルギー需給の展望結果を紹介する。

2. 前提条件

 国内のエネルギー需給を展望するに際しては、京都議定書の達成に向けた二酸化炭素(CO2)の削減努力を抜きにしては語れない。すでに様々な施策が実施されているが、本展望では、@日本経団連の環境自主行動計画(主要業種)、Aトップランナー効率基準(主要機器)、B再生可能エネルギー割当制度(RPS)、C石油石炭税、を考慮した。また、CO2排出量に大きな影響を及ぼす原子力発電所の新規開発については、2000〜2010年度間は平成15年度供給計画(大間原子力発電所についてはその後の計画変更を含む)に基づく8基が、その後2025年度にかけては11基がそれぞれ運転開始すると想定している。また、近年技術開発が著しい燃料電池が、家庭用コージェネレーションシステムとして2020年度に全世帯の5%程度まで普及すると想定した。

3. 展望結果

 一次エネルギー総供給の伸び率は、今後、年平均1%程度の低経済成長や地球温暖化抑制のための省エネルギー対策の影響で、2010〜2010年度間が年率マイナス0.1%、2010〜2025年度間が0.4%、全期間平均で0.2%となる(図1)。この間に石油依存度は52%から42%へと10%ポイント減少するが、これはほとんどが原子力と天然ガスの増加によるもので、新エネルギー等はRPS制度の導入により飛躍的に増加するものの、その総供給に占める割合は2000年度の1.1%が2025年度に2.9%になるに過ぎない。これに水力や地熱を加えた再生可能エネルギーの割合も2010年度では5.7%にとどまり、政府目標ケースの6.6%に達しない。


図1 一次エネルギー総供給の将来展望

 一次エネルギーから発電ロスなどエネルギー転換に伴う損失分を除いた最終エネルギー消費の伸び率は、一次エネルギー供給よりやや低く、2000〜2010年度間では年率マイナス0.4%、その後はGDP成長率の回復などの影響で0.3%となり、全期間平均ではゼロ成長にとどまる。部門別では、環境自主行動計画や自動車の燃費基準強化の影響で、産業部門と運輸部門の消費量が全期間平均ではマイナス0.5%前後の伸びとなる一方、家庭部門と業務部門の消費量が0.5%、1.5%それぞれ増加する。特に、業務部門の全体に占める割合は2000年度に12.3%であったのが2010年度に14.6%、2025年度に18.0%と急速に拡大するが、これは主に産業構造の変化に伴うサービス業の生産拡大や、オフィス部門での単位あたり需要が増加するためである。

 エネルギー源別では、全期間を通じて石炭、都市ガス、新エネ(黒液等を除く)、電力、地域熱供給の需要が伸び、コークス等、石油製品、天然ガス、黒液等の需要が減少する。電力需要の伸び率は2000〜2010年度間が0.9%、2010〜2025年度間が1.0%、全期間平均では0.9%で、実質GDP成長率より若干小さい。電力を系統電力と自家発に分けると、自家発は電力小売り自由化の拡大による電気料金の低下や、自家発の最大のユーザーである素材産業の低成長などによりマイナス0.8%の伸びとなる。系統電力需要の伸び率は2000〜2010年度間、2010〜2025年度間とも年率1.1%で、概ね実質GDP成長率並みの伸びを示す(図2)。


図2 系統電力需要の将来展望

 CO2排出量(エネルギー起源)の伸び率は、様々な施策の効果で、2010年度までの期間で年率マイナス0.5%となる。しかし、2010年度のCO2排出量を1990年度水準に抑制するという政府目標は達成できず、1990年度比4.3%増の水準となり、その後はわずかながらも増加し、2025年度では1990年度比6.6%増の水準に達する(図3)。


図3 CO2排出量(エネルギー起源)の将来展望

 なお、資源エネルギー庁によると、2001年度のCO2排出量(エネルギー起源)は前年度比マイナス2.7%で、1990年度水準と比べると6.3%増となっている(※)。しかし、2001年度は実質GDP成長率が対前年度比マイナス1.4%と景気が落ち込んだことや、冷夏・暖冬であったため、この排出量の減少は一時的なものであるとの見方が支配的である。

 上記のように、今後は経済成長率が低いながらも系統電力は実質GDP並みの伸びを示すと考えられるが、状況次第ではこれを大きく下回る可能性もある。それは、@原子力の新規開発の停滞、A燃料電池の普及拡大のケースを想定した場合、である。仮に、原子力の新規開発が滞れば、電気事業は環境自主行動計画を達成するために、LNG火力の新増設や大幅な焚き増しに加え、石炭火力の大幅な発電抑制を余儀なくされ、この結果、電気料金が上昇する。今後の原子力の新設が現在工事中の3基にとどまり、既設の発電所が運転開始後40年で閉鎖されるとした最も悲観的なケースでは、電気料金は原子力の導入が着実に進む場合と比べて2010年度で2.4%、2025年度で15%それぞれ上昇し、このため系統電力の伸び率は2010〜2025年度間で年率0.8%にまで低下する。なお、本試算は電気料金の上昇による経済成長の鈍化を織り込んでいないため、実際の増加率はさらに小さくなる恐れがある。

 次に、燃料電池コージェネの普及拡大については、政府の燃料電池実用化戦略会議が2020年度に1,000万kWという普及目標を掲げており、これがすべて家庭用として普及すると、普及率は4倍の20%に達する。この場合、家庭用の系統電力需要は普及率5%時と比べて2025年度では20%減少し、系統電力需要全体では5.3%の減少となる。この結果、2010〜2025年度間の系統電力需要の伸び率は、原子力の新規開発が停滞する場合と同様、年率0.8%にとどまる。

4. おわりに

 少子高齢化の加速化、低い経済成長、地球温暖化問題への対応などにより、エネルギー需要はほぼ横這いという、かつてない低い伸びにとどまろう。そうした中で石油依存度は低下し、エネルギーセキュリティは向上するであろう。しかし、地球温暖化問題への対応というハードルは残されている。新たなCO2排出削減対策として、現在、環境税が注目を集めているが、電力中央研究所では、現在、最新の情勢に基づき、既存のエネルギー税制の見直しなども含めた、環境税導入の総合的な影響分析を進めている。

(社会経済研究所 主任研究員 永田 豊)

(※)リンク先:資源エネルギー庁ホームページ
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/energy/030520a.pdf
なお、2001年度におけるCO2排出量の実績値は2001年度表より作成方法が改訂された新しいエネルギーバランス表に基づくものであり、本展望での数値(旧エネルギーバランス表)とは異なる。

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