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公共投資と地域経済

1. はじめに

 1990年代以降拡大を続けている財政赤字を解消するためには、公共投資の削減が必至であり、これが公共投資に依存する地域経済に大きな影響を与えていくことになろう。ここでは、2025年までの長期展望と関連して、供給面からみた公共投資の地域経済への影響を検討してみよう。

2. これまでの公共投資と社会資本

 公共投資への依存度は県ごとに差がある。各県の公共投資の総支出に対する比率をみると、1999年では、島根県、高知県など経済規模の小さい県では公共投資比率は20%近くになっているが、その一方で、東京都や大阪府などでは5%を下回っている(図1)。1975年と比べると、地方圏ではこの比率は上昇しており、首都圏各県、愛知県、大阪府などでは下落している。公共投資への依存度は地方圏ほど高まっていることが確認できる。このため財政再建を目指し、公共投資を削減すると、公共投資への依存度の高い地方圏経済では大きな打撃が及び、都市圏経済との格差が広がることが予想される。

 公共投資が蓄積されたものが社会資本ストックである。当所の試算によれば、日本全体で社会資本ストックは1999年度末で743兆円(以下金額の表示は1990年価格)存在する。生産額当たりの社会資本ストックの賦存量比率を採ると、東京都ではこれが1を下回る。一方、島根県、高知県などでは、この比率は3を上回る。公共投資の伸びを反映して、経済規模が小さい県ではこの比率が高く、1975〜1999年間の上昇率も大きい。


図1 県民総支出に占める公共投資の割合

3. 社会資本と地域経済

 地域に蓄積された社会資本ストックは、地域経済の活動を支える基盤として必ず寄与する。ここでは全国を10地域に区分し、道路・港湾・空港など産業基盤社会資本ストックの生産力効果の差異を定量的に把握し、これにより公共投資の地域配分の問題を考える。このため社会資本ストックの生産弾力性を計測した。これは、社会資本が1%増加したとき生産額が何パーセント増加するかを示すものである。社会資本の生産弾力性は北関東、首都圏、中部、関西では0.13を越えているが、これら以外の地域では0.13を下回り、東北、九州・沖縄が最も小さく0.12を下回る水準にある。このように社会資本の生産弾力性には地域差があるが、大きな差とは映らない。

 しかし、就業者や民間資本の賦存量を一定に保ち、社会資本のみを追加的に1単位だけ増加させたとき生産量がどれだけ増えるかを示す「社会資本の限界生産力」には、実は大きな地域差がある。

 1990年代のデータで計測すると、社会資本ストックの限界生産力は、最大の首都圏では0.93、2位の関西では0.56であるのに対し、最小の北海道では0.20、四国では0.24となる(図2)。したがって、限界生産力の小さい北海道で、産業基盤公共投資を行い、そのストックを1億円増加させても、増加する生産額は2,000万円にとどまるが、限界生産力の大きい首都圏では、同じだけの公共投資を行い、社会資本ストックを増加させれば、生産額は9,440万円も増加することになる。


図2 産業基盤社会資本の限界生産力(1990〜1999年間の平均値)

4. 公共投資の地域配分変化による地域経済への影響


表1 産業基盤公共投資と産業基盤社会資本ストック

 今後、本格的な財政再建が実施されると予想されるため、公共投資は従来のように増加することはなく、産業基盤向け公共投資は2025年まで8兆円台にとどまると想定した。このもとで、公共投資の地域配分を変更したときの地域経済に及ぶ影響をみてみよう。ここでは次の2つのケースを想定して比較する(表1)。

 基準ケース:地方に公共投資を重点的に配分する従来型の配分が今後とも続き、1990年代後半の公共投資の地域配分比率が2025年まで一定に保たれる。

 効率配分ケース:公共投資の地域配分パターンを従来型ではなく、地域の生産額に比例し配分する。地方に公共投資を重点的に配分する政策は90年代後半に至り徐々に見直されていく傾向にあり、現在もその流れは続いているが、この傾向が加速すると見込んだケースである。

 こうした公共投資配分を前提に地域経済を展望した結果は以下のとおりである。ただし、ここでは生産関数を使った計測で、需要面の影響は考慮されていない。

 まず、基準ケースでは、日本全体の経済成長率は2000〜2025年間では1.0%となり、国内総生産額は2015年で582.2兆円、2025年で638.9兆円となる(表2)。同期間の経済成長率が最も低いのは北海道で0.4%、最も高いのは首都圏の1.4%である。

 一方、効率配分ケースでは、日本全体の経済成長率は同期間では1.1%となり、国内総生産額は2015年で593.5兆円、2025年で656.0兆円となる(表3)。このとき総生産額を大きく伸ばすのが首都圏で、経済成長率は年率1.8%まで高まる。関西、北関東もわずかだが成長率が高まる。これに対し、これ以外の地域の成長率は軒並み低下するが、これにも地域差があり、中部ではごくわずかな低下であるが、北海道や四国といった地域では、経済成長率は0.3%ポイント低下する。

 2つのケースを比較すると、日本全体の経済成長率は、それぞれ1.0%、1.1%であり、表面的には大きな差があるようには見えない。しかし、日本全体の累積生産額の差は、2000〜2025年間で242兆円にものぼる。特に大きな増加となるのが首都圏であり、公共投資の地域配分の恩恵をほぼ独り占めする形で生産額を増やしており、生産額の累積額の増加は335兆円にもなる。


表2 公共投資の基準ケースのもとでの地域内総生産額

表3 公共投資の効率配分ケースのもとでの地域内総生産額
 

5. まとめ

 今後、財政再建を図る中で公共投資の削減が不可欠であるといわれている。それだからこそ、公共投資に効率を追及することも重要な課題となる。公共投資の全てが経済的な利益を追求してなされるものであってはならないが、従来どおり固定的な地域配分を保つ必要もない。公共投資の源は、税収であれ国の借金であれ、最終的には国民の財布にある。特に産業基盤の整備に向かう公共投資に限っていえば、自分の財布からお金を使うときと同じように、その効果に十分な配慮を払い、どこに何を作るかを検討していくことが求められている。

(社会経済研究所 上席研究員 大河原 透)

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