電力中央研究所

閉じる

知の源流

ボイラー内の微粉炭粒子の挙動を詳細に計測可能な「乱流燃焼モデリング炉

東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、電力の安定供給と運用コスト削減の観点から石炭火力発電が再評価されている。しかし、プラント性能の向上等に加え、燃料となる石炭の炭種拡大は大きな課題だ。電力中央研究所エネルギー技術研究所は、様々な石炭を利用する際のリスク低減や運転条件の最適化に資する新たなシミュレーションモデルづくりを目指し、乱流燃焼モデリング炉を開発。世界でも未知の研究領域に挑んでいる。

利用炭種の拡大に向けて微粉炭粒子の挙動解明に挑む

 世界中の暮らしやビジネスを支える電気の約4割は石炭火力が担っている。世界で石炭の利用が進む理由は、埋蔵量が天然ガスや石油に比べて多く、世界中に広く分布しており安価で安定的に入手できるためだ。

 日本においても発電電力量の約1/4は石炭火力である。年間を通じて一定の出力を維持するベース電源として活用されている石炭火力だが、東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、電力の安定供給と運用コスト削減の観点から再評価する声が高まっている。

 そうした声に応えるべく、発電効率の向上やCO2の排出抑制など、日本が世界に誇る最先端技術のさらなる進化が図られている。これらの技術進歩に加え、今後は燃料の安定確保の観点から、これまで利用されていない低品質の石炭の活用など炭種の拡大が大きな課題となる。

 「従来、発電プラントは経験に基づき運転を行ってきました。しかし、使ったことのない石炭も燃料として利用することが求められる中で、過去の経験だけでは対応が難しいのが現状です。手探りの運転は非効率であり、点検にも多くの時間と手間を要します。また未知のリスクが発電プラントを止める要因となる可能性もあります」と、丹野氏は語る。

 様々な石炭を使うことにより発電所の燃焼炉(ボイラー)の中では何が起きるのか。千数百度のボイラー内における微小な石炭粒子(微粉炭粒子)の挙動を解明する試みに、丹野氏をはじめ6名のプロジェクトチームが挑んでいる。

世界に類を見ない乱流燃焼モデリング炉を開発

 発電所のボイラー内で微粉炭粒子が空気と混合し燃焼するプロセスがNOxの排出量や燃焼効率に大きく影響を及ぼす。そのためボイラー内の微粉炭粒子の速度や変動などの挙動を把握することは重要だが、高温のボイラー内での詳細な計測は困難であり、その技術は未だ確立されていない。そこで、プロジェクトチームはシミュレーション技術の活用に着目した。実機を用いずボイラー内での微粉炭粒子の挙動を再現できるからだが、微粉炭火力を対象とするシミュレーションモデルは1960〜70年代につくられたものが多く、粒子の挙動を高精度に計算できるモデルはこれまでなかった。

 「幅広い炭種に適応した微粉炭燃焼技術を開発するためには、微粉炭燃焼場を高精度に再現できるシミュレーションモデルが必要です。2011年、燃料の着火プロセスや環境影響物質の生成・分解などの特性を詳細に計測し、燃焼現象の解明とそのモデル化を目的とする乱流燃焼モデリング炉の設計を開始しました。設計に1年、製作に1年をかけ、2013年10月に稼働に至りましたが、世界でも前例がなく、すべて手探りで行ったため常に不安との戦いでした」と丹野氏は振り返る。

 乱流燃焼モデリング炉の設計でこだわったのは、高精度かつ詳細な計測を行うために石炭以外の余分な要素を徹底的に排除することだった。ポイントとなったのは、石炭のみによる着火と、 非接触でのレーザーによる計測を採用したことだ。しかし、その実現は容易ではなかったという。「微粉炭の量を多くすれば着火しやすくなりますが、レーザー計測が難しくなります。かといって、微粉炭の量が少なすぎると着火できません。着火する確証を得るまで試行錯誤の繰り返しでした。」

研究のための研究ではなく社会に役立つことが大切

 発電所のボイラーを対象に、シミュレーション技術を活用する目的は主に3つあるという。1つめが、未利用燃料の燃焼性の評価と運転条件の最適化の実現だ。新しい燃料による運転調整期間の短縮を図り、早期に発電プラントの安定運転を可能にする。2つめが、トラブルの原因究明や回避方法の模索における活用だ。今まで見えなかった燃焼現象が可視化されることで、新たな「気づき」につながる点も大きなメリットになる。3つめが、燃焼装置の開発期間や開発費の削減だ。燃焼装置の開発は数グラムの燃料を燃焼できる規模から始め、数十グラム、数百グラムと経験的手法に基づき段階を踏んで徐々に数トンスケールまで大きくしていくのだが、シミュレーション技術の活用によりステップ数を短縮できる。

 今回のプロジェクトは、同研究所が微粉炭火力発電技術の研究開発で築き上げてきた35年以上の歴史の上に成り立っていると言えるだろう。その歴史の中では研究を通じて社会に貢献する思いが受け継がれている。「研究者としては流体力学と燃焼反応の相互作用にとても興味があります。また、新しいシミュレーションモデルを世界中の研究者が利用する代表的なモデルにしていきたいという夢もあります。しかし、研究のための研究になってはいけないと考えています。当研究所の存在意義は成果を社会に還元することにあり、私もその一員として使命感と誇りを持って日々の研究に取り組んでいます」と丹野氏は話す。

 電力中央研究所には、独創的かつ類のない設備、それを活用し新たな価値を創造する研究者たがいる。電力の安定供給により人々の豊かな暮しを支えていくために、同研究所の挑戦は続く。

研究員プロフィール

エネルギー技術研究所 燃料高度利用領域 主任研究員
丹野 賢二 たんの けんじ

最終学歴京都大学大学院 機械工学専攻(博士課程)
職歴2014年4月〜現在 九州大学炭素資源国際教育センター 客員准教授
2014年4月〜現在 群馬大学 大学院理工学府 客員准教授

(2016年3月現在)

当所入所年月2007年4月
研究専門分野流体工学、燃焼工学、粉体工学
研究内容入所以来、微粉炭ボイラ、石炭ガス化炉などの火力発電機器を対象とした熱流体・反応数値シミュレーション技術の開発に従事。最近は、開発したシミュレーション技術の電気事業の現場への適用と、詳細な実験による燃焼シミュレーションモデルの高度化に取り組む。

このページの先頭へ戻る

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry