電力中央研究所

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知の源流

半世紀にわたって電力系統の安全性確保に貢献「大容量電力短絡試験設備」

日本の電力系統は世界的に見てもトップクラスの安定性、安全性を誇っている。この実績は、電力供給に関わる技術者、研究者たちの絶え間ない努力により支えられている。電力中央研究所 電力技術研究所に属する大電力試験所では、50年以上にわたって電力機器・機材の短絡性能評価試験研究を継続し、電力系統の安全性確保に貢献してきた。安全の追求なくして新技術の導入はあり得ない。電力系統の安全性を評価する研究は今後も続けられていく。

時代のニーズに応じて電力系統の安全性を評価

 電力機器・機材では、落雷や経年劣化などにより短絡事故が起こる可能性がある。短絡とは、一般的にショートと呼ばれている現象のことで、通常時の数十倍以上の電流が流れる現象を指す。短絡事故が起きた場合には、このような大電流によって大きな電磁力が発生するだけでなく、数千〜数万度に及ぶアーク放電が発生し火災や爆発などに至る可能性がある。このため、万一の事態に備えて公衆への安全性を評価する試験が必要とされている。

 今回紹介する大容量電力短絡試験設備は、1963年に財団法人 超高圧電力研究所により設置された設備となる。当時の日本は高度経済成長期の真っただ中にあり、電力の安定供給と安全性の確立が求められていた時代となる。その後、1977年に同設備は電力中央研究所に継承され、時代のニーズに合わせて改修を重ねながら50年以上にわたって運用が続けられている。

 電力系統の技術は日進月歩で進化を遂げているが、「技術が向上すれば、安全性に対する新しい需要が生まれます。よって、時代のニーズに応じた性能評価試験が常に必要となります」と電力中央研究所の田中氏は語る。その証拠に、設立から半世紀以上を経た現在でも、同施設では年間50件以上の試験が実施されているという。試験の内容は、新設される電力機器・機材の性能検証的な試験をはじめ、実際に起きたトラブルの原因究明のための再現試験、設計データ取得のための各種試験など多岐にわたる。これらの多くは、電力会社や電力機器メーカーから依頼を受けて実施するものである。

 試験から得た結果は、安全性の確保を目的とするだけでなく、事故発生時の被害を最小限に抑え、早期復旧を目指すための貴重な資料として活用される。新技術の開発のように世間の注目を集める研究ではないが、電力技術研究の王道ともいえる、極めて肝要な研究。だからこそ長年にわたって継続され、今後も絶えることなく続けられていく研究となる。

研究者の目線であらゆる課題に柔軟に対応

 電力中央研究所が保有する大容量電力短絡試験設備は、大電流を発生させるための短絡発電機や各種変圧器、短絡試験棟、制御・計測システムなどで構成される、非常に大規模な試験設備となる。電力機器・機材を設置して試験を実施する短絡試験棟は、床面積40×25m、高さ29mの広さを有し、厚さ約1mの壁面で覆われている。短絡試験時には爆音が発生するケースもあるため、それに備えて周辺環境への防音対策が十分に施されている。

 同様の試験設備は、いくつかの電力機器メーカーにも設置されているが、「我々は第三者機関として客観的な視点で試験を行っていることが特長の一つ。機器単体の試験だけでなく、実際の設置状況を模した複合的な環境での試験も実施しています。あらゆる課題に柔軟に対応できることが当試験所の強み。大電力試験所には現在12名が在籍していますが、そのほとんどが、研究者として、故障電流やアーク放電などをキーワードとした研究にも取り組んでいます。個々の深い専門知識と試験所に継承・蓄積された知見を生かして、”研究者の目線”で安全かつ安心な社会を追求していくことが我々の責務だと感じています」と田中氏は電力中央研究所ならではの役割を語る。実際、外部から試験を依頼されたときも、指定された試験方法に則るだけでなく、研究者としての経験からより適切に評価できる方法を提言するケースも少なくないという。

 同設備は2001年に大電力試験に関する試験所認定(ISO/IEC17025)を取得。国際基準を満たす試験所として認定されている。とはいえ、「それ以前から長年にわたって試験を継続してきたという自負があります」と田中氏が語るように、試験所としての能力の高さは過去の実績がすでに実証済みである。

落雷事故の模擬試験にも応用できる試験設備

 電力中央研究所の大容量電力短絡試験設備は、直流大電流を発生できる直流短絡試験設備を有していることも特長の一つとなる。当設備は、直流電力系統を対象とした試験などで主に活用されているが、高エネルギーを有する落雷による事故を模擬した試験にも活用されている。近年では、落雷による被害が問題となっている風車ブレードや架空地線(送電鉄塔上部を結ぶ雷防護のための導線)などを対象とした試験が実施されている。

 「幅広い電力機器に携わることができる短絡試験は、様々な知見に触れられる貴重な経験になります。この経験を大事にして、今後の研究活動にも生かしていきたいですね」
 こう田中氏が語るように、短絡試験で得た経験は新たな研究展開を考える上での貴重な知見として蓄積されている。

 今回、設備を紹介してくれた田中氏は、1995年に電力中央研究所に入所して以来、約20年にわたって設備を活用した大電流現象に関する研究に勤しんでいる。学生時代は、1アンペア以下の電流を扱った静電気応用に関する研究に従事。短絡試験とは、電流の大きさが全く異なっているが、「電気現象を扱うことに変わりはありません。学生時代の経験も現在の活動のベースになっています。安全性の確保は、今後も決して変わることのない重要な課題です。技術が進化していく限り、そのニーズが絶えることはありません。今まで携わってきた経験を生かして、新しいニーズにも応えられるように研究を進めていきたい」と研究者としての向上心を忘れない。

 電力中央研究所では様々な分野の研究が進められているが、その根底には「産業研究は知徳の練磨であり、もって社会に貢献すべきである」という共通理念がある。今回紹介した事例は、それを明瞭に示した一例といえるだろう。

研究員プロフィール

電力技術研究所 大電力試験所 上席研究員
田中 慎一 たなか しんいち

最終学歴名古屋大学大学院 工学研究科 電子情報システム専攻(博士課程)
当所入所年月1995年4月
研究専門分野大電流、放電、短絡試験
研究内容主に電力系統での万一の故障等発生時の安全性確保に向けた、大電流現象に関わる研究に従事。特に電力流通設備で発生する気中アーク放電現象の特性解明や短絡性能評価技術の高度化などに取り組む。

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