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知の源流

過酷事故時の原子炉内流動を精緻に可視化「軽水炉模擬燃料冷却限界実験設備」

「軽水炉模擬燃料冷却限界実験設備」は、原子炉内の伝熱流動を模擬できる実験設備。定格運転時の炉内状況はもちろん、炉内水位が低下して燃料が露出するような過酷事故も再現でき、X線と独自の計測技術を用いて可視化することで空間的にも時間的にも精緻なデータ計測を可能としている。緊急時の対応策を高度化し、原子炉の安全性をさらに向上させる実験設備として、その研究成果には多大な期待が寄せられている。

過酷事故時の炉内状況を多次元計測する可視化技術

 原子力発電の安全性を向上させるには、設計基準の範囲を超えた過酷事故(SA)が発生した場合にも炉内状況を正確に把握し、炉心の損傷を防止する対応策を講じておく必要がある。電力中央研究所に設置された「軽水炉模擬燃料冷却限界実験設備」は、原子炉圧力容器内の伝熱流動を忠実に再現できる実験設備。類似の伝熱流動実験設備は大学や重電メーカーにも幾つかあるが、実験条件を自由に設定でき、さらに炉内状況を精緻に可視化できるという点において、他とは一線を画す先進的な実験設備になっている。

 炉内の伝熱流動を模擬する伝熱流動実験ループは、沸騰水型軽水路(BWR)の定格運転条件を模擬できる高温高圧ループであり、実機と同寸の発熱長さを有する模擬燃料集合体を用いた冷却限界実験が可能である。実験内容に合わせて、圧力、温度、流水量、水位、熱出力を自在にコントロールでき、これにより様々な事故状況を再現する。試験部には医療用X線の約40倍のエネルギーを発生させる線形加速器と高エネルギー検出器を配置し、圧力容器の内部を鮮明に撮影する。炉内状況を多次元的に計測するX線CT/リアルタイムラジオグラフィ設備である。

 この計測設備には2つの計測モードが用意されている。1つ目の計測モードは胃の透視動画撮影のように平面的な透過像を高速撮影するもので、炉内の沸騰気泡や液膜が時間的に変化していく様子を詳細に観察できる。2つ目の計測モードは、X線加速器を回転させながら軸方向移動するCTスキャンによって三次元観測する方法で、こちらは炉内の状況を高い空間分解能で観察する場合に利用される。

 さらに、電力中央研究所が独自に開発したサブチャンネルボイドセンサ(SCVS)という計測技術も採用されている。この計測技術は、格子状に張り巡らせたワイヤ電極、ならびに燃料棒を模擬したロッドを電極として使用し、それぞれの電極近接部における電気信号の変化を読み取ることで、局所的なボイド率を測定するものとなる。例えば、模擬燃料棒を5×5正方格子状に配置したバンドル試験体の場合、電極近接部が132箇所あるSCVSを高さ方向に8箇所配置し、計1,056地点のボイド率を最高1/5,000秒間隔で連続計測することが可能。X線CTスキャンと組み合わせることで、空間的にも時間的にも炉内状況を精緻に観察できる仕様になっている。

 また、X線CTを用いる試験部の圧力容器にも工夫が施されている。通常、圧力容器の素材にはステンレスが用いられるが、同実験設備の圧力容器はチタン合金で製作されている。ステンレスよりも軽くて強固なチタン合金を用いることでX線の透過率を高め、可視化性能を向上させるのが狙いである。

過酷事故時の安全性を高める事故マネジメントの高度化

 原子炉のように高温高圧の環境下にあり、さらに液体と気体が混合する二相流の実験は、実験設備の設置や観測手法の確立が難しく、近年では数値解析による研究が主流となっている。もちろん、その妥当性を検証するには実験データによる裏付けが必要であるが、過去に得られたデータの多くは空間平均、時間平均による計測結果であり、現状では十分な知見を得られていない。

 特に2011年の福島第一原子力発電所の事故以降、従来の設計基準を超えた事象においても炉心の健全性を確保する対応策が求められている。この対応策を確立するにあたって、特殊な環境下で炉内流動を再現、観測できる実験設備は欠くことのできない存在となる。今回紹介した設備を使って様々な実験データを取得し、既存の事故解析コードに反映させれば、より高度化された対応策を構築できると期待されている。

 今回の実験設備は、実寸の模擬燃料集合体一体分を可視化できる仕様になっている。加えて、実験条件を自由に制御でき、高レベルの可視化性能を備えているため、あらゆる事象に応用できる実験設備となる。当面は事故マネジメントの高度化に向けた実験が続けられるが、定格運転時の炉内状況も再現できることから、原子炉内伝熱流動に関わる様々な研究テーマで利用することが可能である。

時代のニーズに対応する確固とした技術基盤

 本研究に携わる新井氏が電力中央研究所に入所したのは2005年。大学時代は蒸気爆発の安全性評価について研究を進めていたという。就職先に電力中央研究所を選んだ理由については、「蒸気爆発を含め、伝熱流動分野でも多彩な実績がある電力中央研究所なら、自分の専門分野を生かした研究を続けられると考えました。また、単に研究だけやって終わりではなく、研究成果を実際の現場に即座に反映できることも大きな魅力と感じていました」と当時を振り返る。

 さらに「ニーズは時代とともに変化しますが、どんな研究でも求められる“技術の基盤”は変りません。機材を買ってきてデータを計測するだけではなく、センサの開発や実験設備の設計など、問題解決に必要となる工程を一気通貫で行えるのが電力中央研究所の強み」とも述べている。

 電力中央研究所は設立当初から60年以上にわたり、電気事業に関わる様々な研究を総合的に継続してきた実績がある。技術と知見の蓄積、そして優れた研究機関としての資質が、今後も社会の発展に大きく寄与することは間違いない。

研究員プロフィール

原子力技術研究所 原子炉システム安全領域 主任研究員
新井 崇洋 あらい たかひろ

最終学歴筑波大学大学院 システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻(博士課程)
当所入所年月2005年4月
研究専門分野伝熱流動、混相流計測技術
研究内容軽水炉のアクシデントマネジメント策の高度化に向け、事故時の原子炉内熱流動現象の詳細把握、安全解析コードの改良に関する研究に従事。最近は、事故時の燃料露出過程における炉心冷却特性に関する研究に取り組んでいる。

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