電力中央研究所

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知の源流

独自技術で世界最高性能の高加速度振動試験を実現「共振振動台」

2011年の東日本大震災以降、原子力発電所には高い安全性が要求されているが、それ以前から安全性向上に向けた研究開発は絶え間なく続けられている。今回紹介する「共振振動台」は、今までの多くの地震被害を背景に開発が計画された実験装置で、10tの試験体を最大20Gの高加速度で加振試験できる性能を誇っている。独自技術により従来の試験装置を大きく上回る性能を実現し、より高いレベルでの安全性評価を可能としている。

二重ばね別置き方式で最大20Gの加振試験が可能に

 発電施設に設置されている機器は、振動台を使った加振試験などにより耐震性能を評価するが、従来の振動試験装置は最大10G程度の加速度しか再現できないものが一般的であった。一方、電力中央研究所に新設された「共振振動台」は、最大20Gまでの加速度を再現でき、10tクラスの試験体を評価できる試験装置としては世界最高性能を誇っている。

 地震により生じる加速度は、1995年の兵庫県南部地震で0.8G、2011年の東北地方太平洋沖地震で2.7Gと報告されているが、これはあくまで地表部分の観測記録でしかない。原子力発電所の設計用の基準地震動は最大2Gであり、建屋の応答増幅が加わり、配管系に生じる振動は10Gを超える加速度が生じる可能性もある。もともと原子力発電所は十分に余力を持って設計されているが、「主蒸気逃がし安全弁」や「電動弁駆動部」のように安全性の確保に極めて重要な役割を果たす機器の安全性を評価するには、強大な加速度を発生できる試験装置の開発が求められていた。

   

 このような背景から誕生したのが、今回紹介する「共振振動台」となる。ただし、単純に“強大な加速度を発生させる”といっても、その開発は容易ではない。電力中央研究所が所有する既設の 大型振動台の加振能力は100tfしかなく、10tの試験体を載せると最大10Gの加速度しか再現できなくなる。そこで「二重ばね別置き方式」と呼ばれる機構を新たに開発し、従来型(親子亀 方式)の振動試験装置の2倍に相当する20Gの加速度を再現することに成功している。具体的には、大型振動台で発生させた振動を載荷ロッドで共振台に伝え、ばねマス系の共振現象を利 用することで、より大きな荷重を発生させ、基礎で反力を受けることができる。もちろん、これは世界的に見ても類のないものであり、電力中央研究所が独自に開発した技術となる(特許申請 中)。 

 さらに、試験時に発生する地面振動を周辺地域に伝播させないための工夫も施されている。振動台の両端にはセミアクティブマスダンパー(SAMD)が2基併設され、計100tのダンパーを逆位相で動かすことで周辺に地面振動が伝播するのを抑制している。この振動制御には、1/2000秒単位で制御用の信号を発生させる高速計算機が用いられている。他機関の振動試験装置の振動伝播の抑制装置には「空気ばね」で 浮上させるケースが多く、こちらも世界的に見て類のない技術となる。

レベルの高い安全性を確保する重要機器の耐震性能評価

 「共振振動台」は2015年2月より運用が開始されており、すでに8体のバルブについて耐震評価試験が実施されている。試験体には実物と同じバルブが使用され、加振中も問題なくバルブが開閉することを確認するために、バルブの動力系統を含めた形で試験が実施される。これまでは5tクラスの試験体を用いた評価試験が実施されてきたが、今後は10tクラスの試験体を用いた試験も予定されており、新設された「共振振動台」の性能を如何なく発揮した研究が進められていくことになる。 

 これらの試験により得られた成果は、原子力発電所の安全性をさらに向上させる重要な知見として活用されていく。原子力発電所の既設のバルブについては今回の機能確認によって耐震補強が不要となった、という実例からも分かるように、本来は原子力発電所の安全性を評価するために開発された試験装置が、結果として合理的な安全対策に大きく貢献しているという側面もある。 

 この研究に携わる酒井氏は、「基準値における安全性を確認するだけでなく、各機器に何Gの加速度を与えると破損や動作不良などが生じるかを把握する限界性能試験にも本装置を応用できると考えています。もちろん、その範囲は原子力発電所に限ったものではありません」と語っている。このように様々な耐震評価に応用可能な試験装置として、「共振振動台」は今後も幅広い活躍が期待されている。

自ら装置を開発しなければ世界最先端の研究は行えない

 酒井氏が電力中央研究所に入所したのは1991年。それ以来、24年以上にわたって耐震研究に尽力している。大学時代は土木工学を専攻。当時、研究室の先輩にスカウトされたことが電力中央研究所へ入所した“きっかけ”となるが、その背景には「研究開発により社会に貢献したい」という信条がある。 

 「周辺地域への振動伝播を抑制するSAMDは、土木の知識を活用して解決しました。常に新しい技術に挑戦し、世界最先端の研究を行っていきたいと考えています。そのためには、市販されている装置を購入して使うのではなく、自ら装置を開発し、研究に生かしていく必要があります。自分自身、装置の設計が好き、ということもありますが、問題解決に向けて、装置の設計段階から研究に携われることも電力中央研究所の大きな魅力と感じています」と現在の研究環境について語っている。さらに今後の研究については、「現在は1軸方向の加振だけですが、将来的には2軸方向に加振できる試験装置に改良し、より現実に近い耐震試験を実施していきたいと考えています」と展望を述べている。

 電力中央研究所で進められている研究テーマは、陽の目を見るまでに何年もの月日を要するものが少なくない。地道な努力と世界最先端に挑む熱情が、未来の社会をよりよいものへと変えてゆく。

研究員プロフィール

地球工学研究所 地震工学領域 主任研究員
酒井 理哉 さかい みちや

最終学歴早稲田大学大学院 理工学研究科 建設工学専攻(修士課程)
当所入所年月1991年4月
研究専門分野地震工学、耐震・構造工学
研究内容原子力機器配管の地震時弾塑性応答評価に関する研究に従事。最近は、高経年化による配管の減肉を考慮した耐震安全性に関する研究、重要機器の動作機能を確認するための高加速度振動試験に取り組む。

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